魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

魅了魔法

「私はなにも……」

 否定しかけたところを遮られる。

「あなた、魅了魔法を使っているでしょ?」

(みりょう魔法?)

 聞き慣れない言葉に、首を傾げかけ、意味がわかると、慌てて首を振った。

「使っていません!」

 魅了魔法なんて、とんでもない!
 相手の意思など関係なく、好意を持たせて、操る魔法。
 そんなので王太子殿下をたぶらかすなどという不敬なことをするはずがない。したいと思ったこともない。それにそもそも魅了魔法の発動の仕方自体知らないわ。

「私、魅了魔法など方法も知りませんし、使ったこともございません」

 エブリア様は強い視線でじっと私の反応を観察していた。

「それなら、試させてくれるかしら?」

 私がうなずくと、エブリア様は執事を手招いた。
 離れて立っていた黒髪の執事が進み出てくる。

「うちの家系は魔法に長けた者が多くて、魔法適性がある者を引き取って教育しているの。ここにいるオランもそうよ。彼は変わり種で魔女に育てられたから、魔法教育はすでに終わっていて、今は教養というか社会常識を学びにうちに来ているの」

 それと魅了魔法との関係がわからず、私は首を傾げた。
 軽く会釈して、そのオランがさらに近寄ってきた。
 なにかを持っている。
 カイルが反応するのを目で抑える。

「失礼いたします」

 オランが透明な球を私の手に当てた。

「それは魔法の種類を特定する魔法具よ。一日以内に使われた魔法の種類によって色が変わるの」

 エブリア様が説明してくれる。
 その球体は鮮やかな黄色と一部だけ青色に染まった。

「ほら、やっぱり魅了を使っているわ。それもすごい出力で。青いのは浄化魔法ね」
「そんな! 私、本当に魅了魔法なんて使ったことありません! 浄化魔法は王宮で指導されているからようやく慣れてきたところで」
「この魔法具に間違いはないわ」

 首を振って否定するけれど、エブリア様は確信を持っているようで、取り合ってくれない。

「オラン、どう?」

 さらにエブリア様が聞くと、オランはめまいがするように額に手を当て、答えた。

「強力な魅了を感じます。離れているとましですが、ここまで近いと打ち消すのも大変です」
「うそ! 私、なにもしていません!」

 オランの口ぶりだと、今現在も私は魅了魔法を使っているようだ。でも、当然そんなことはしていない。
 うろたえて、エブリア様を見つめることしかできなかった。

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