魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

眠れない夜は

*−*−*


 その夜、私はなかなか寝つけなくて、カイルに声をかけた。

「カイル、眠れないの。触ってもいい?」
「ワン!」

 許可するように、犬の姿のカイルは寝そべっていた姿勢からおすわりしてくれた。早速、彼に抱きつく。

 犬の姿でもカイルは割と大きく、私が座ったのと同じくらいの大きさで、背中に回した手で艷やかな毛並みをなでた。
 そうすると、顔がとても近くなって、彼のほっぺに顔を擦り寄せた。湿った鼻が首筋に当たる。
 顔を離して、耳と耳と間をなでてやると、カイルの耳が垂れて、ハッハッと舌を出した。気持ちよさそうな顔をしている。
 
(人の姿のときよりも感情がわかりやすいかも)

 カイルは犬の顔でもキリリとしたハンサムさんで、硬めの灰色の毛の間から、アーモンド形の透き通った碧い目が覗き、とてもかっこいいの。
 目の上には眉毛のように白い毛が生えていて、それもチャーミング。
 
 そんなカイルに、自分の頭の中を整理するようにつぶやく。

「魅了魔法なんて使いたくないのに、どうやったら止められるのかしら?」
「クゥ〜ン」
「聞いたって、わからないわよね」
 
 私はカイルをモフりながら、とりとめもなく考えた。

「どうして……いつから魅了魔法が発動しているんだろう?」
「クーン」
 
 カインが首を傾げる。かわいい。
 ワシワシとなでる。
 
「魅了魔法が迷惑をかけていて、止める術がないのなら、私はどこかに引きこもって暮らしたいわ。そのときは、ついてきてくれる?」
「ワン!」

 カイルが尻尾をブンブン振って、勢いよく返事してくれる。
 
「ありがとう! うれしいわ!」

 私はまたカイルにぎゅっと抱きついた。

「キュ〜ン」

 身じろぎしたカイルがかわいい声を漏らす。
 カイルと二人で暮らせるなら、どこでも生きていけるわ。
 どうにもならなくなったら、そうしよう。

 そう考えると気が楽になって、カイルを心ゆくまでモフモフすると、私は再び横になった。今度はすんなり眠りの世界へ行くことができた。



< 12 / 79 >

この作品をシェア

pagetop