魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「アイリ様、これをスウェイン様に渡してほしいの」

 数日後、エブリア様は魅了魔法を打ち消す護符を取り寄せたそうで、私を呼び出し、それを渡してきた。

「私なんかからお渡しするより、エブリア様から渡されては……」
「受け取ってもらえなかったのよ!」

 自分から王太子殿下に近づくのは気が進まないと思い、言ってみたら、涙目でかぶせるように答えられた。
 どうやら冷たく拒絶されたらしい。

「スウェイン様は決してそんなことを言う方ではないのにおかしいのよ! 私の作った焦げたクッキーを美味しいと微笑んでくれたり、ぬいぐるみがお好きなのかと勘違いしてプレゼントした熊ちゃんを可愛いと言ってくださったり、お疲れだというので、淹れてさしあげたものすごく酸っぱいお茶を飲んでくださったり……」

(エブリア様……。結構やらかしてるのね)

 ひとしきり殿下の素晴らしさを力説したエブリア様はハッと我に返って、扇子を広げて顔を隠した。
 赤くなっているようだ。やっぱり可愛らしいお方かも。
 でも、パチリと扇子を閉じたときにはもういつもの澄ましたお顔に戻っていた。
 
「違うのよ! 試しただけなんだから! スウェイン様がどういう反応をされるかと思って。……とにかく、そんなスウェイン様が私のプレゼントを拒否されるなんて、おかしいのよ。魅了のせいだけではないのかもしれないと思っているの」

 もの思わしげなエブリア様が私を見た。

「気になるのはスウェイン様やその側近だけではなく、先日お会いしたら、なんだか国王陛下のご様子もおかしいような気がして。あの有能な方がぼんやりとしていらっしゃったの。あなた、陛下にお会いしたことはある?」
「はい。なぜか聖女として扱われるようになってから、毎朝陛下に拝謁することになっていて」
「毎朝? それは変ね」
「そうなんです。特にご報告することもありませんし、陛下にも御用はないはずなんですが、決まりだからといって……」
「そんな決まり、あったかしら?」

 エブリア様が頬に扇子を当てて、考え込んだ。
 
(どうしよう? 王太子殿下だけでなく国王陛下まで私の魅了魔法でおかしくなっちゃってるの?)

 思ってもみなかったことを指摘されて、ショックを受ける。

「相関性を調べるために、今まで王宮で会った人とその頻度を教えてもらえるかしら?」
「はい。わかりました」

 私のせいじゃなければいい。そう願いながら、お会いした方々の名前をピックアップする。
 王宮に住んでいるといっても決まった場所しか行かないし、陛下に拝謁するのと浄化魔法を教わる以外に人と会うこともないので、対象者は限られている。
 メモをお渡しすると、エブリア様はにこりと微笑んだ。

「ありがとう。お父様に調べてもらうわ」
「いいえ、私で役に立てることがあればおっしゃってください」
「考えておくわ。まずはスウェイン様にその護符をお渡ししてね」
「わかりました」

 大事に護符を受け取ってから、私はエブリア様に聞いてみた。

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