魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「アイリ様、ちょっと来てくださるかしら?」

 翌日、私の教室に現れたエブリア様は、有無を言わさない迫力で、私の手を引っ張って、いつものサロンに連れていった。
 何事かと注目されて、恥ずかしい。

「スウェイン様が謝ってくださったの!」

 サロンに入るなり、感激したように目を潤ませて、エブリア様が叫んだ。

「それはよかったですね」

 やっぱりエブリア様は王太子殿下のことが相当お好きみたいだ。
 微笑ましく思い、私までにっこりする。

「あ、謝ってほしかったんじゃないんだから! やっぱり魅了のせいだとわかったのがうれしいのよ!」

 はいはい。ごまかさなくていいのになぁ。
 
「それでね」

 落ち着いた声に戻って、エブリア様が続けた。

「こうした護符を今大量に作って、要人に配ろうと思っているの。スウェイン様も手伝ってくださるって」
「そうすれば、王太子殿下のように、目を醒ましていただけますね」
「そうね。対処法さえわかっていたら、どうにかなるわ」
「よかったです」

 根本的な解決ではないけれど、事態が改善しそうでほっとした。
 エブリア様も安心したのか、麗しいお顔でにっこりされた。
 エブリア様が笑みを浮かべられると、大輪の薔薇が咲いたようで、見惚れてしまう。
 それからしばらくは、王太子殿下がどんなに誠実に謝ってくれたかとか、その様子がどんなに素敵だったかを語られた。
 見た目は妖艶な美女なのに、恋する乙女なエブリア様はかわいらしい。

 美味しいお茶とお菓子をいただいて、その日は心穏やかに帰宅した。
 でも、それは嵐の前の静けさでしかなかった。
 
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