魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
*−*−*


「アイリ! ここにいたのか!」
「殿下、ごきげんよう」

 アメジストのような瞳をきらめかせて、王太子であるスウェイン殿下が近寄ってきた。
 光沢のある銀髪に怜悧に整ったご尊顔は彫刻のように美しく、私は目を伏せると膝を曲げて礼をとった。

「そんなにかしこまらなくていい。私のことはスウェインと呼んでくれって言っただろう?」
「いいえ、とんでもございません。恐れ多いです」

 王立学校に編入してから一か月。
 なぜか王太子殿下にやたらと懐かれている。
 殿下は外見は優美な上、聡明で、将来を期待されているともっぱらの評判で、美しい婚約者もいらっしゃるのに、私を見るとすぐ寄ってこられる。
 私が聖女と判明してから、身の安全のためということで王宮に住んでいるし、同じ学校に通う殿下に編入より前に引き合わされた関係で、当初は慣れない私を気づかってくださっているのかと思っていた。でも、だんだん距離が近くなって、ボディタッチが頻繁になってきて、困惑している。

「あ、アイリ、こんにちは」
「今日も美しいね」
「やぁ、元気かい?」
「よう」
「皆さま、ごきげんよう」

 王太子殿下の側近の方たちにも取り囲まれる。この方たちも高位貴族の方々ばかりで、声をかけられるのも恐れ多いのに、やはり距離感がおかしくて、どんどん間合いを詰めてくる。

(顔はいいんだけどね)

 かわいい系、かっこいい系、セクシー系、無骨系。
 選り取り見取りだ。
 でも、私は挨拶しながら、なにげなく後ろに下がった。
 後ろには私の愛するカイルが控えている。彼の気配を感じるとほっとして、息をついた。
 ちらっと彼を振り返って、逃げたいと合図する。
 冷たい碧の瞳が私を見返す。表情の乏しい精悍な顔で、カイルは私の意図を汲み取り、無言でうなずいた。

(かっこいい)

 こんなときだというのに、思わず見とれそうになる。

「お嬢様のお加減が悪いようなので、失礼いたします」

 カイルは言うや否や、私を抱き上げ、すたこらさっさとその場から逃げ去った。その速さは殿下も側近の皆さんも声をかける隙もないほどだった。
 さすが、私のカイル。

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