魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
 中庭に出て、ベンチで下ろしてもらう。

「助かったわ。ありがとう、カイル」
「いいえ、俺の仕事ですから」

 私がにこやかにお礼を言っても、カイルは特に表情を変えない。凛々しい顔で物静かに私を見るだけだ。
 その様子に安心感と物足りなさを覚える。

 どうやら私は異性をむやみやたらに惹きつける体質らしい。
 大概の男の人は、私が微笑みかけるとぼーっとなり、見つめる瞳に熱がこもる。
 成長してからは顕著で、身の危険を感じることもあるので、笑みは最小限にしている。
 それでも、王太子殿下や側近の方々につれない態度をとるわけにはいかず、儀礼的な笑みで彼らを惹きつけてしまい、悪循環に陥っていた。

(もう! この体質なんとかならないのかしら)

 おかげで女性からは敵視されて、この学校でも友達どころか、話しかけてくれる女子もなく孤独だ。
 これも聖女の能力なのかしら?
 それにしたって、王太子殿下たちの態度はおかしい。優秀な方々のはずなのに、婚約者がある身で、これほどまでに私にかまってくるなんて。

(私はカイルがいればいいのに)

 そばに控えるカイルを見つめる。
 きりりとした瞳を覆うように前髪は長く、自分で切っているというだけあって、不揃いだ。以前は髪を短く切るように言っていたけど、その髪を掻き上げるとハンサムな顔が現れるから、他の女性に見せたくなくて、最近はあまり言ってはいない。私と二人きりのときだけ、前髪をあげてもらっている。
 ちょうど今はここに来た勢いで前髪があがり、その粗削りながら整った顔が見えていた。

(はわぁぁぁ、素敵)

 カイルは十二歳の頃からずっと一緒にいる、私の側仕え、兼、護衛。
 やっかいな体質の私を四六時中守るために、寝るときも一緒だ。といっても、彼は犬の獣人なので、寝るときは犬の姿で、ベッドの端で丸まって寝る。最初は床で寝ると言い張ったカイルをなんとか説得してベッドにあがってもらった。
 私のベッドは広いから、大型犬姿のカイルが寝ても、十分広い。
 眠れないときなどはモフモフさせてもらうと、落ち着いて眠りにつける。髪の毛と同じチャコールグレーの毛は柔らかいのに芯があり、しなやかで触り心地がいい。きっとそれは私しか知らないこと。

 無表情だけど、ずっと私を守ってくれて、優しくて、頼りになって、素敵なカイルに惚れないわけがない。
 それでも、男爵令嬢と使用人という身分の差は越えられるはずもなく、いつかはお父様の決めた方のもとへ嫁ぐしかないのだろうとあきらめている。

 その前に、うっかり過ちでも起きないかとカイルを誘ってみるけれど……。

(はぁ)

 彼は異性としては私のことを見ていないらしく、無反応だ。私のやっかいな体質も一番効いてほしいカイルにだけは効果がない。
 
 ままならないことばかりで、私は溜め息をついた。
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