魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
*−*−*


 朝、目を覚ますと、カイルはベッドの端っこで寝ていた。もう!
 カイルににじり寄る。
 でも、私から離れようとするなんて、意識している証拠よね?
 単純に嫌なだけだったら、立ち直れない……。

「カ〜イル、おはよ〜」

 そう言って抱きつくと、カイルが飛び起きた。
 無表情な彼にはめずらしく、目を見開いている。

「アイリ様、おはようございます。主人よりも遅く起きるなんて……」
「ううん、大丈夫よ。私が早く起きただけ。カイルだって、疲れてるだろうし……っていうか、本当に疲れてない?」

 前髪の隙間から濃い隈が見えて、カイルの顔を覗き込もうとした。でも、カイルはふっと顔を逸して、「大丈夫です」と言った。

 朝食をとると、また馬車の旅だ。そして、私はカイルの膝の上。
 こんなことしているから、カイルが疲れちゃうのかもと思い、膝から下りようとしたけど、この馬車の振動はアイリ様には耐えられないだろうと引き戻された。
 仕方なくカイルの膝の上で、窓の外を覗いていたら、カイルがうとうとしだした。一生懸命、眠気と戦っているようだけど、なかなか勝てないようだ。
 こんなことはとてもめずらしい。  
 
(もしかして昨日あまり眠れなかったのかしら?)

 その理由を聞く勇気がない代わりに、グラグラ揺れる頭を私の肩に導いた。
 カイルの頭の重みを感じる。髪の毛が首もとをくすぐる。
 なんだかうれしくなって、ふふっと笑った。


 そんなふうに旅は続いた。
 幸い、追手の気配はなく、オランによれば、ここまで来たら、もう大丈夫だろうということだった。

 カイルは一緒に寝るのに抵抗感があったようだけど、何日かしたら、慣れてしまった。
 でも、抱きつくとビクッとするようになったし、異性として意識してもらえるようになったのかなぁ。
 どうなんだろう?
 カイルはなんとも思っていない顔をしているし、大きな枕ぐらいにしか思われていないような気もする。
 切ない。

 ひたすら馬車に乗っているだけなので、楽しみは窓の外の風景と、休憩や宿泊のときの食事ぐらいだった。
 羊の肉の串焼き、野菜を混ぜ込んで焼いたパンのようなもの、大きな川沿いの町では、川魚のフライをパンで挟んだものなど、普段、食べることのないものが食べられて、興味深かった。

「あのかわいい羊さんがこんなに美味しい串焼きになるなんて!」
「本当にこれはうまいですね」

 ぺろりと口についたソースを舐めたカイルが色っぽくて、ドキドキする。
 カイルも羊肉の串焼きが気に入ったようだ。



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