魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
◆◆◆


(俺のバカーーーッ! なんでこれを習慣化してしまったんだ!!!)

 俺は腕の中で眠るアイリ様を見つめ、うめいた。

 疫病患者に胸を痛めて熟睡できずにいるアイリ様を抱きしめたのは、下心などいっさいなく、ただお慰めしたかったからだ。

(アイリ様はなにも悪くないというのに、お優しいがゆえに責任を感じてしまわれているのだろう)

 背中をさすって差し上げると、ふっと力が抜け、俺に体を預けてこられた。
 アイリ様がスーッと眠りに入られて、心から安堵した。
 そこまではよかった。

 ふと我に返ると、俺の体にぴったりとアイリ様がくっついて眠られている。
 その魅惑のボディをあますところなく全身で感じてしまう。
 鼻の真下にはアイリ様の頭があって、甘い匂いと柔らかな髪の感触を伝えてくる。
 スースーという穏やかな寝息も俺の耳をくすぐる。
 俺の下半身が反応してしまうのも無理はないだろう。
 視覚、聴覚、嗅覚、触覚まで来たら、味覚でも味わいたくなるよな?
 うぅ、舐めたい。

(ダメだ! オッサンの股間……いや、ジイさんの股間……効かない。萎えるもの、なんだ? あぁ、タマネギの匂い!)

 俺はうっかりタマネギの匂いを嗅いでしまったときの強烈な刺激臭と目の痛みを思い出した。

(キャイ~ン、キャイ~ン)

 思わず、鼻を押さえ、頭の中の尻尾が縮こまった。

(よく人間はあの匂いに耐えられるよな……)

 失神しそうな臭気の記憶のおかげで、俺はすっかり萎えた。
 その日はそれで事なきを得た。

 しかし、翌日も不安そうなアイリ様を腕に囲ってしまう。そして、その翌日も。
 天国と地獄が同居しているような心持ちだ。
 俺は今夜もムラムラ、ムラムラするのをどうにかやり過ごし、眠りについた。


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