魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
「お前の魅了は異性にしか効かないだろ?」
「はい。そのようです」
「その手の魅了魔法は目的を達したら治まるはずだ」
「目的?」

 アイリ様がかわいらしく小首を傾げる。
 うなずいた魔女は話を続けた。

「魅了魔法は本来は意中の相手を手に入れるために発動する。だから、お前がその相手と結ばれたら、治まるだろう」
「意中の相手……結ばれる……」

 ボンと音がしそうな勢いでアイリ様が真っ赤になった。
 例の身分違いの想い人のことを考えているに違いない。
 その目はキラキラ輝き、自然に漏れた笑みは大変可愛らしい。しかし、しかし……。

(アイリ様が他の男のものになってしまうぅぅぅーーーっ! くぅぅぅっ、だが、カイルはアイリ様の幸せが一番ですぅぅぅ。うぅぅ……)

 やばい。泣きそうだ。

「それなら、私、頑張ってみます!」

 小さな手を握りしめて、アイリ様が決意を表明された。
 アイリ様はやると言ったら必ず実行されるお方だ。
 俺のひそかな恋心もここまでだな。これからは、忠誠心でもってお仕えしよう。

 落ち込む俺に対し、ウキウキとしたようなアイリ様は魔女にお礼を言って、その場を辞した。
 オランはもう少し魔女の世話をしてから宿に戻るというので、二人だけで先に帰ることになった。
 帰りは大丈夫かと心配したが、魔女が安全を保証してくれた。
 それに、どういった仕組みなのか、森の道をいくばくか歩いただけで、村が見える出口に着いた。

「魔女さんって、やっぱりすごいね!」

 内から発光するような輝きを継続されているアイリ様が俺を見上げて、にっこりする。

(うぅ、まぶしい……。溶けてしまいそうだ。そうだ、このまま溶けてしまえたら、どんなに幸せか……)

 アイリ様にうなずき返しながらも、俺はそんな現実逃避をしていた。
 

 宿に着き、ちょうどいい時間だったので、夕食をとってから、部屋に戻った。
 すると、アイリ様は急に俺の手を両手で握って、ねだるように言った。

「魔女さんの話は聞いていたわよね? 協力してくれるかしら、カイル?」

 キラキラおめめで、頬を染めて言うアイリ様は暴力的なくらい可愛らしい。
 それが好きな男を想っての表情だと思うと胸が痛くてたまらない。

(あぁ、なんて残酷な言葉だ……。でも、どんなにつらくとも、俺がアイリ様に協力しないわけがない。うぅぅ……)

「もちろんです。俺にできることなら、なんでもお申しつけください」

 心の中で泣きながら答えた俺に、アイリ様の頬はさらに赤くなった。

「ありがとう。じゃあ、お風呂に入ってくるね」
「は、い……?」

 なぜそこで風呂が出てくるのかわからず、曖昧に返事してしまったが、アイリ様はさっと風呂場へ向かってしまった。

(ああ、一刻も早く王都に戻りたいから、早く寝る準備をしたいということか……)

 俺はアイリ様の着替えを脱衣所に用意すると、椅子に力なく腰かけ、うなだれた。

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