魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
 馬車の速度がゆっくりになって、やがて止まった。

「お願いします」
 
 オランの言葉に、すばやく馬車を降りたカイルが私を抱き上げ、学校のパーティー会場を目指して、走り始めた。
 カイルがしっかり私の体を支えてくれているけど、やっぱり怖くて、彼の首もとに捕まって目を閉じる。
 風をビュンビュン感じているうちに、あっという間に校舎内に入り、今度は廊下を疾走する。
 恐る恐る目を開けてみると、みんな、パーティーに出ているようで、周りには誰もいなかった。

 パーティー会場は学校の一番奥の舞踏場だ。
 そこに近づいたとき、中から声が響いてきた。

「エブリア・ケルヴィン! 貴様との婚約を破棄する!」

 王太子殿下の鋭い声。
 私は息を呑んだ。

(エブリア様の予想通りだわ。王太子殿下は婚約破棄をしようとしている!)

 彼のことが大好きなエブリア様はどんなにおつらいことでしょう。
 そう思ったとき、今度はエブリア様の声がした。

「あら、それはどういった理由でしょうか?」

 ゆったりとかまえたような声。
 優雅に扇子をあおいでいらっしゃる姿も目に浮かぶ。
 この状況でこんなに落ち着いていられるなんて、さすがエブリア様だわ。

「そんなの決まっている。聖女を拐かした罪だ。アイリはどこにいる!?」

(あぁ、なんとか間に合ったわ!)

 私を抱えて走っていたカイルに下ろしてもらい、扉を開け放った。

「ここにおります!」

 花やリボンできらびやかに飾り立てられたパーティー会場の明かりがまぶしい。
 壁際からは美味しそうな料理の匂いが漂ってくる。
 卒業パーティーに集まった人々の視線が一気に私に集まった。
 
(怖い。やっぱりこれは私のキャラじゃなかったわ)

 私はカイルのしなやかな体躯の影に隠れた。
 これで安心。この愛しい人の背中に守られていれば。
 カイルの服を握りしめると、落ち着いた。

 私は力を溜め、口を開いた。

「浄化!」

 キラキラしたシャンデリアの光に負けないくらい輝く光がその場を覆った。
 目がくらんだように、頭痛がするように、人々が目や頭を抑えた。

「なんだ、今の光は?」
「あの子は確か聖女だったよな?」
「浄化って言ってなかったか?」

 辺りがざわつく中、エブリア様が王太子殿下に近寄った。彼はまだ額を押さえていた。

「スウェイン様、私をどうするっておっしゃいましたか?」
「エブリア……君を……婚約破棄……しないっ!」

 そうおっしゃって、王太子殿下はエブリア様を抱きしめた。さすがのエブリア様もその行動に目を見開いていた。

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