魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。

浄化の旅

 浄化の旅には、オランとエブリア様の侍女、王太子殿下の側近の武骨様……もとい、エイノス様がついてきてくれることになった。
 一時期、学校でエイノス様にも言い寄られ、ゆるくだけど監視されていたので、正直、いい気持ちはしなかった。
 でも、今回、改めて会うと、その頃とは全然雰囲気が違っていて、やっぱりあのときは操られていただけなのがわかった。
 前回の旅と違って、正式な王命になったので、王家の馬車に護衛もいっぱいいる。

(乗り心地はいいけど、私はカイルの膝の上のほうがいいなぁ)

 カイルのことを思うと泣きたくなるから、慌てて外を眺めた。

 馴染みのあるオランがついてきてくれるのは有り難かった。
 車内には進行方向に私と侍女の女の子が座って、対面にエイノス様、オランが座った。
 オランはもともと必要事項以外はしゃべらないし、エイノス様は武骨系だから、寡黙。
 私もおしゃべりする気分ではなかったから、車内はひたすら沈黙が流れがちだったけど、侍女のユーリが明るくてうるさくない程度に話しかけてくれたので、気まずい雰囲気はなかった。
 ユーリはオランとも親しいらしくて、しばしば彼をからかって、遊んでいた。


「浄化!」

 町や村を通りかかるたびに、浄化を施し、夜は村長や町長、領主の館に宿泊した。
 聖女ということで歓待され、慣れていない私はただひたすらニコニコするしかできなかった。
 そして、エイノス様がついてきてくれた意味もわかった。

 領主がちょくちょく自分の息子を私にどうかと勧めてきたのを「聖女様には決まった相手がいる」とバッサリ断ってくれた。
 エイノス様は騎士団長でもあるデカリズ侯爵の一人息子で、王太子殿下の側近と名が知られているれっきとした高位貴族だ。
 オランや私では断れない話をバサバサと断ち切ってくれた。
 しつこい人には陛下や王太子殿下の言葉をちらつかせ、それに逆らうつもりかと問う。
 取り付く島もないエイノス様の対応に、みんなあきらめてくれた。
 夜這いまでされたことがあったけど、今度はユーリが撃退してくれた。
 みんなに守られて有り難い気持ちでいっぱいになる。

 エイノス様は実は熱い人でもあったようで、一度、盗賊の襲撃にあった際、自らの剣で戦いながら「お前たち、恥を知れ! ここにいらっしゃるのは疫病を浄化してくださっている聖女様だ。どれほどの人々が助かって、どれほどの人々が助けを待っているのか、わからないのか!」と怒鳴りつけ、盗賊を散り散りにしたこともあった。

 操られていなければ、王太子殿下もエイノス様も優秀な人だったんだなぁとひそかに思った。
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