魅了たれ流しの聖女は、ワンコな従者と添い遂げたい。
 王宮に着いたら、ちょうど今、閣議中ということで、閣議の間に向かう。
 途中から、エブリア様のお父様のケルヴィン公爵の私兵も合流して、物々しい。
 入口の扉の前で待機すると、合図があって、私は扉に手をかざした。

「浄化!」

 それと同時に、扉を開け、兵がなだれ込んだ。

「な、なんだ?」
「私はいったい……?」
「どういうことだ?」

 キラキラした光が満ちる中、怒号や混乱の声が飛び交い、王太子殿下の指示で、兵が何人かを拘束した。
 側近のふりをしていつの間にか現れた人ということで、あやしい人物の目星はついていたので、ふいをつけば、捕まえるのは簡単だった。逃げようとしていた人も容赦ない王太子殿下やオランの魔法で昏倒していた。

 エブリア様と私は扉の横で、それを見ていた。

 一瞬でその場は鎮圧されて、守るように兵に取り囲まれた陛下のもとへ王太子殿下が駆けつけた。

「父上、お加減はいかがですか?」
「私はいったい……」

 なにかを振り落とすように、しきりに首を振る陛下に、王太子殿下が状況を説明した。




 そのあと、集められた貴族や王都を浄化して回り、カイルのところへ行けたのは夕方だった。
 あやしい動きをしていた人は皆、事情聴取に連れていかれた。お父様も含めて。

 病室で静かに横たわるカイルを見つめる。
 血の気を失って、顔が真っ白だった。
 息をしているのか心配になって、口もとに手を近づけてみた。

(よかった。息をしている)

 かすかにカイルの息づかいを感じて、ほっとする。

「カイル……」

 そっと彼の髪をなでる。目にかかっていた前髪をよけて、頬に手を当てる。

「カイル……カイル……絶対、目を覚ましてね。私も頑張ってくるから。きっとよ?」

 想いが募って、彼に口づけた。

 すると──

 カイルがぼんやりと目を開けた。
 綺麗な碧がチラッと見えて、また見えなくなった。

「カイル!」

 名を呼ぶけれど、もう彼は目を開けてくれなくて、代わりにシュルシュルと毛が生えていき、犬化した。

 メイドさんたちが騒いだので、「カイルは獣人なので、こうやって、獣化するほうが傷の治りが早いそうです」と説明する。

 着せられていた寝巻が窮屈そうだったので、脱がせてあげた。メイドさんが手伝ってくれようとしたけれど、丁重に断った。
 ぐるぐるに巻かれている包帯が痛々しい。
 幸い、包帯はそのままで大丈夫そうだった。

 ふさふさの毛並みをなでて、「私、頑張ってくるから、カイルも頑張ってね」と繰り返した。

「行ってきます」

 カイルに口づけ、名残惜しく首筋をなでて、私は立ち上がった。
 なにも言わず見守ってくれていたエブリア様を見る。

「行きましょう」
 
 これから、オランと疫病浄化の旅に出る。
 数ヶ月かかると思われる旅路だ。
 帰ってきたときにはきっとカイルは元気に出迎えてくれるわよね。
 いつの間にか流れていた涙を拭って、病室を出た。

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