華夏の煌き
 昼夜逆転の京樹は、日の出とともに眠りにつく。まるで最初から夜型だったかのように今はすっかり馴染んでいる。寝台に横たわると、洗濯された清潔な寝具が心地よい。京湖がすすぎ水の最後に数滴たらす、精油の香りがうっすらと漂う。深く苔むしたような木の香りを吸い込むと、思考がほぐれ京樹はまた深い闇の世界へ落ちていった。
 
58 隊商
 年に一度、西国のキャラバンが都にやってくる。西国と華夏国との貿易でもあり、外交でもあるのでキャラバンの隊長は国賓である。国の機関がそろぞれ取引を終えたのち、都の催しが行われる大広場で、キャラバンは庶民のための市を開く。華夏国も明るく豪華で華やかな彩の国であるが、西国はまた独特の極彩色で彩られ、刺激的な香料であふれている。

 朱京湖は普段以上に肌をおしろいで白く塗る。首や手首、指先まで念入りに塗っていった。波打った髪を、水と油でまっすぐに伸ばし、顔を多く覆うように垂らしてから一つにまとめる。漢服の袖で、顔をちらちら隠していれば、西国の紅紗那族には見えない。

「おまたせ」

 書物を読みながら待っていた星羅は、京湖の姿を上から下まで眺め「すっかり華夏国民ね」と笑顔を見せる。

「そう? ならいいけど」

 西国の商人の密告を恐れ、京湖はこの市の時にはいつも以上に装いを漢民族に仕上げる。もう変装ともいえるぐらいで、外で彰浩や京樹に会っても京湖とわからないかもしれない。

「じゃ、優々を連れてくるわ」

 星羅は厩舎に行き、馬の優々に「今日はかあさまも乗せてね」と首筋を撫でた。優々は了解したとばかりにぶるっと頷く。その隣で老いたロバの明々が恨めしそうな眼をする。もう誰かを乗せることも、荷を引っ張ることも明々には難しかった。それでも明々は、京湖と一緒にささやかな菜園を耕す手伝いをしていた。

「待てってね。明々の好きな岩塩買ってきてあげるから」

 星羅の言うことがわかるのか明々は嬉しそうに「ホヒっ」と鳴いて足を踏み鳴らした。

 優々に京湖を乗せて、星羅も後ろに跨った。

「ゆっくり走らせるから」
「ありがと。馬は速いものねえ」
「かあさまは、ゾウという動物に乗っていたのでしょう?」
「若いころはね。走ると結構速いのだけど、普段はロバの明々よりのんびりしてたのよ」
「市にゾウが来ないかしら。本物を見てみたいわ」
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