華夏の煌き
「とても大きくて優しくて賢いのよ。だから余計に可哀そうだわ」

 古代から象は戦争に利用されてきたことを、京湖もよく知っている。心優しく賢く強い象は、西国において軍隊の兵器だった。華夏国においても古代には象を軍隊で使用していたが、象軍よりも、騎馬隊の活躍が目覚ましくなり、すたれていった。気候の変動などもあり、華夏国には南方の奥地に野生の象がわずか居るだけだった。

 軍師省の厩舎に馬を繋ぎ、星羅と京湖は市へたどり着く。遠目からでも市の賑わいがわかるほど、大勢の人々が行き交っている。

「今年も盛況ねえ」
「香辛料たくさん買えるといいね」

 色とりどりの西国の衣装を横目に、京湖はいつもの場所の香辛料売り場にやってきた。京湖は顔を見られぬように星羅の後ろにいて、欲しいスパイスの名前を告げる。もう十数年も経っているのだから、平気だろうとは思うが習慣的に警戒をしていた。

「えーっと、孜然(クミン)、宇金(ターメリック)、香菜(コリアンダー)、小豆く(カルダモン)、それとその三色の胡椒と唐辛子をもらおうかな。あ、それも! 」
「こんなに香辛料が好きな漢民族もなかなかいないね」

 白いターバンを頭に巻いた商人の男は白い歯を見せて笑う。

「ああ、昔、辺境で咖哩飯(カレーライス)を食べてからはまってしまって」
「そりゃあいい」

 スパイスを麻袋に詰め終り、商人が星羅に手渡したとき「おや?」と一瞬手を止めた。

「ん? 何か? 金が足りないか?」
「いや、兄さんによく似た女の人を西国で見たことがあってね。まあでも漢民族はみな同じ顔だしなあ」

 その話を聞いたとき、星羅も京湖も、胡晶鈴のことを話しているのだと思った。平静を装い星羅は尋ねる。

「僕によく似た女性かあ。その人はなぜ西国に? 今はどうしてるんだろうか?」
「さあー。なんでだろうなあ。だけどもう昔のことだけど、確か別の隊商ともっと西の浪漫国に行ったよ」
「浪漫国……」
「どうかしたかい?」
「あ、いや。えっと岩塩はどこだったかな?」
「塩なら、反対側に売ってるよ。まいどあり」

 これ以上深く追及しても何もわからないだろうし、京湖の素性がばれても困るので星羅は話をやめた。心配そうな表情で京湖がそっと星羅の肩に手を乗せる。

「かあさま。もう母は西国にいないようですね」
「そのようね」
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