華夏の煌き
 絹枝はそう言いながら目の前の竹簡に目をやる。今まで春衣に任せていた、使用人の給金や役割を確認している。

「どうもこれからは、私が家のことをやらなければならないかも……」
「春衣さん、よくなるといいですね」
「ええ……」

 星羅はこれ以上絹枝の邪魔をしないように、庭のほうへ向かった。その前に春衣の部屋がある。一応見舞ったほうがいいかと、春衣の部屋付きの下女に声を掛ける。

「あの、春衣さんにお会いできるか聞いてみてくれる?」

 若い下女はすぐに春衣のもとに行って帰ってきた。

「お会いになるそうです」

 下女は静かに春衣の寝台へ案内する。使用人頭から側室になった彼女の部屋は、調度品が上等な物に変わっており、白檀の香が焚かれ重厚な雰囲気になっている。正室の絹枝の部屋より、夫人の部屋らしい感じがした。
 しっかりした寝台のまえに来ると春衣が身体を起こして星羅を待っていた。

「いらっしゃい……」
「こんにちは。お加減は……」

 そう言いかけて、春衣を見ると言葉が続かなかった。髪も肌も艶がなく、目は落ちくぼみ明らかに良くないことがわかる。

「こっちにきてもらえる?」
「え、ええ」

 春衣は星羅を寝台に腰かけさせる。

「今の私を見たら、晶鈴様はなんと言われるかしら」
「きっと早く元気になるようにって言うと思います」
「そうかしら。そうなるのは当たり前よって言わないかしら」

 星羅には春衣が何を話しているのかわからなかった。

「自分の欲望のために……。だから貴晶は身弱なのかしら……」

 春衣は疲れたのか目を閉じた。星羅はそっと下女に目配せし、二人で春衣を横たわらせる。

「おやすみなさい」

 静かに寝台を離れ、部屋を出た。すぐに庭が見え、柔らかい草の上に陸慶明が座っていて、膝に赤ん坊を乗せてあやしている。

「おじさま」
「やあ、星羅きてたのか」
「ええ、少しお話があったのだけど」

 慶明も少しやつれているように見えた。

「何かな。ここでもいいかね」
「もちろん。あの、おめでとうございます。知らなくて」
「ああ、いいんだよ。貴晶、星羅だ。そなたの姉上のようなものだな」
「こんにちは」
「あうぅうむぅっ」

 小柄な貴晶は声のほうに応じる。

「賢いですね。もう言ってることがわかるのかしら」
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