華夏の煌き
「どうだろうな。でも明樹と違って言葉が早そうだ。この子は少し虚弱だから、考えることのほうに長けているかもしれないね」

 貴晶は赤ん坊にしては肉付きがあまり良くない。春衣が体調を悪くし、乳も出ないので乳母を迎えてたっぷり与えているということだが、そもそも量を飲まないらしい。
 星羅は春衣がなぜか自分自身を責めている様子に理解ができず、慶明に聞いてみた。

「春衣さんが、自分のせいで赤ん坊が身弱と言ってましたけど、どうしてですか?」
「春衣がそんなことを? さあ、なぜだろうな。確かに子を産むには若くはないが……」

 慶明も春衣の言葉の真意を知らない。今も寝台でぶつぶつと晶鈴に懺悔のような言葉をつぶやいている。

「私の後を継ぐのは、明樹ではなく貴晶のようだ。身体こそ強くないが、それが逆に薬師として適正になると思う」
「そうかもしれませんね」

 春衣の欲望と独占欲は直接的には満たされなかったが、貴晶が慶明の跡継ぎになるという方向で叶う。残念ながらそうなったときの貴晶の姿を春衣は見ることが叶わないだろう。死の床で晶鈴に、星羅を亡き者にしようとしたことを懺悔し続ける。

「それで、話とは?」

 星羅は母の京湖と西国のキャラバンによる市に行った時の話をした。

「晶鈴が浪漫国に……」
「その夜、父とも話したのですが、西国も浪漫国もいまだに奴隷制度があるらしいですね」
「ああ、わが華夏国ではすっかり解放された奴隷も、隣国にはまだある。宦官すらまだ廃止されてないところも多いだろう」

 曹王朝の高祖が求賢令を発布したときに、まったく身分を問われなかった。さすがに犯罪者の登用だけはなされなかったらしい。その時から、奴隷の身分が解放され、宦官も廃止される。
宦官がいなくなっただけでも朝廷の腐敗はなくなり、奴隷解放によって国家の生産性は上がった。他国に比べて思い切った政策は華夏国の誇りでもあった。

「母がもしや奴隷にでもなっていたら」

 まだ見ぬ母の身を案じ星羅は胸を痛めている。

「いや、晶鈴のことだ。奴隷になどなるまい。太極府でも晶鈴は心配ないと言われただろう?」
「ええ……」
「とにかくこちらからは動けまい。京湖どののこともあるし。外交官として西国に行けるのは軍師助手以上だったな」
「そうです。見習いから上がらなければ……」
< 123 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop