華夏の煌き
「うん。やみくもに一人で西国に行っても、ましてや浪漫国行っても何も成果が得られないだろうな。とにかく星羅は精進するしかない」
「ですね」

 十数年ぶりに得たと思った母の情報は、もっと遠くの国にいるかもしれないということだけだった。華夏国内であれば、晶鈴の行方を把握できていたが、国外はさすがに難しい。

「希望を捨ててはいけないよ。晶鈴はきっと無事だ」
「外国で漢民族は目立つかもしれませんね」
「ああ……」

 慶明は図書館長の張秘書監に紹介状を書いてくれた。本来なら軍師見習いの身分では会えることが叶わない人物である。国家の図書館であれば、浪漫国のことをもっと詳しく調べられるだろうということだった。

 西国出身の朱彰浩と朱京湖から、浪漫国は言葉も習慣も全く違うと聞いている。全然違う民族に思えるが、まだ漢民族と紅紗那族のほうが近しいということだ。

 星羅は忙しくなってきた。国家への献策を考えると同時に、浪漫国の言語獲得にもいそしむことになる。あえて忙しいほうが星羅にとって、悲しくならなくて済む分ありがたかった。
 
60 面影
 紹介状を持って星羅は王立図書館に向かった。場所はやはり軍師省と同じ金虎台にある。図書館に入ったことはあるが、張秘書監の管理する禁帯出資料の場所には許可が下りていないので入ったことはない。そこには高祖の兵法書をはじめとする大事な初版と外国から入ってきた書物が保管されている。
 図書館は案外人が多くいて、整頓したり、書き写したりと忙しそうだ。

「張秘書監にお目にかかりたいのですが」

 星羅は近くの職員に紹介状を見せながら尋ねる。

「おまちください」

 見習いだろうか。同じような年頃の若い女が星羅をちらっと見て頬を染め、奥に入っていった。しばらく待っていると音を立てずに小走りで帰ってきた職員は「どうぞ、こちらへ」と案内する。

「ありがとう」

職員はこっそり「あの、軍師さまですか?」と尋ねてきた。

「まだ見習いですが」
「すごいですね」

 女は尊敬のまなざしを向ける。大きな活躍がないとはいえ、軍師省に入るということは頭脳明晰ということなのだ。もう少し話したそうだったが、目的の場所についてしまったようで「ではこれで」と残念そうに去っていった。

「失礼します」

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