華夏の煌き
 朝なのか夜なのかわからないずっと薄暗い部屋で、陸明樹ははっきりしない頭で横たわっている。狭く寝台しかない部屋はずっと甘ったるい香が焚かれ続けていて、時々やってくるやせ細った若い女が明樹を世話しにやってくる。

「どうぞ、ダンナ様」
「う、うう……」

 明樹は腹が減っているわけではないのに、女が匙を口元に持ってくると粥のようなドロドロしたものを啜ってしまう。椀を一つ平らげると、女は明樹の着物を脱がせ、身体を清拭し始める。そのころにはまた思考がぼんやりし始め、女にされるがままになり、何かを問われたら従順に答える日々だった。


 許仲典を伴い、星羅は明樹の勤務先にやってきた。この地を守る県令に面会を頼むとすんなり通され、事情を聞くことができたが書簡と同じ内容で詳しいことは何もわからなかった。

「調査はもうしてないのですか?」
「なんせ、西国の領土なのでなあ」

 平和ボケしたような県令は、とにかく何事も起こらないように穏便に済ませたいらしく、西国に掛け合うこともしないようだ。中央と違い辺境では、身代金を目当ての盗賊による誘拐はある。身代金の要求であればとっくに届いていてもいいはずだがそれはない。
 星羅が独自に調査するしかなかった。

「問題を大きくすることは辞めてほしい。国交問題になると今は特に厄介なのでな」

 男装をしている軍師の星羅を見ると、何か事を起こしそうに見えるのだろう。県令は、くぎを刺す。

「わかってます。大それたことはしません。夫の命に係わるかもしれませんし……」
「頼む。陸副隊長が使っていた家はそのままにしておるので」

 とりあえず、明樹が住まいにしていた家に赴き、これからのことを考えることにした。

「仲典さんはそちらの部屋を使って」
「んだ。星羅さんは少し休むといい。おらは馬を世話してくる」
「わたしも行くよ」
「いいや、おらだけでいい。まだまだこれからなんだから休んだほうがいい」

 許仲典の言うように、ろくに休まずにここまでやってきたので星羅は疲労困憊だった。明樹の使っていた寝台に横たわるとすぐに星羅は眠りに落ちていった。

 美味そうな香りに気づき、星羅は目を覚ます。

「あっ、ここは?」

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