華夏の煌き
 食事などで時々外に出されるが基本、牢のような荷台に乗せられた。男たちは、晶鈴が大人しくしているので猿ぐつわも、縄も解いてやっている。ずいぶん遠くまで着たころ、逃げ出すチャンスが何度か訪れたが晶鈴は逃げなかった。人違いとも言わなかった。
 もう朱京湖は町から離れているだろうから、今、晶鈴が逃げ出しても彼女を捕まえることはそうそう出来ないだろう。

「もうしばらく様子をみましょう」

 命の危険は感じないのでそのまま終点につくまで晶鈴は行動をとらなかった。

「着いたぞ!」

 男は晶鈴の頭から布をかぶせ周囲を見えなくさせる。身体にも縄を掛けられた。

「へへへ。こりゃどうも。じゃ、俺たちはこの辺で」

 男たちは金を受け取ったようで、カチャカチャと金属音をさせて遠ざかっていった。

「こちらへ」

 今度は女の声が聞こえ、晶鈴の背をそっと押し歩くよう促す。布の中から下を見ると六芒星のレンガが敷き詰められている。美しい意匠だと飽きることなく長い距離を歩いた。階段に差し掛かり、その白い大理石の美しさにも目を見張る。

「京湖の国の趣向も素敵なのね」

 色々な大理石のモザイクが美しい広間に入り、しばらく歩くと女が「膝まづいてください」と晶鈴の肩を上から押さえる。晶鈴は黙って膝まづいた。

「待っておったぞ」

 頭の上から太く低くいやらしさを感じる男の声が聞こえた。腰掛けていた男は立ち上がり、手ずから晶鈴の布をとった。顔を上げた晶鈴の目の前の男は、にやにやとした顔が瞬時に激昂した表情に変わった。

「だ、誰だ! 貴様は! この女は誰だ!」

 怒りで目を真っ赤にさせ、晶鈴の胸元をつかむ。

「ラージハニはどこだ!」

 おそらく京湖のことを言っているのだろうと分かったが、晶鈴は「不知道(しらない)」と答えた。言葉が通じないようで、男は通訳のために人を呼ぶ。気品のある老人がやってきた。怒り狂っている男と違い、静かで優し気な老人は晶鈴に京湖のことを尋ねる。しばらく話し合うと、老人はわかったと頷き男に向きを変える。

「バダサンプ殿。どうやらこの者は占い師だそうでラージハニ様から、占いの褒美にこの衣装と腕輪を賜ったとか。それきりラージハニ様の行方は知らぬということです」
「ぐぬっ」
「この者には罪はありません。どうかご容赦を」

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