華夏の煌き
 実際に自国で奴隷の身分でいるよりも、浪漫国で奴隷として暮らすほうがより人間らしい暮らしができる。そのため、西国でも土耳其国でも浪漫国への奴隷市が開催されると、最下層の者がこぞって応募してくる。噂によると、浪漫国では奴隷の身分であっても金をため市民の身分を買うことが出来るらしい。生まれた時にすでに身分が決まってしまう奴隷にとって夢のような話だ。
 隊商に連れられた奴隷たちは逃げ出すことをせず、浪漫国に夢を抱いているかのようだ。

「建物も衣服も華夏国に負けず劣らず発展しているのに、身分は変化しないのね」

 晶鈴は王族以外、身分制度のない華夏国は素晴らしい国なのだと自画自賛する。ほかの奴隷たちに華夏国の話をするとどうだろうか。きっと信じられないだろう。

 一年以上かけての旅は過酷で、隊商は最初の3分の2の人数になっている。浪漫国に到着したときに半分以上残っていればいいほうだ。旅慣れた屈強の商人たちはおおよそ残るが、奴隷の半数は病にかかり、水に当たり死んでいく。この旅は奴隷の自然の選別でもあった。シルクロードを越えることのできる奴隷の価値はとても高い。身体の頑丈さと精神力が並の人間とは違うのだ。半分失っても、隊商の儲けは莫大だ。

 一年も一緒に旅をすると家族のような親密さが生まれる。晶鈴は「もたない」ほうだろうと思われていた。西国人とも土耳其人とも違い、白く華奢で弱々しく見える。さすがに日焼けをして小麦色の肌になっているが、強そうには見えなかった。

「お前は見た目とは違ってなかなか屈強だな」
「私たち華夏国民は肉体だけではない。気が大事なのよ」
「面白いことを言うな」

 いつの間にか言葉も覚え、よく話した。国民性なのか、西国人も土耳古人も陽気で難しく考えることはしない。
 長旅もいよいよ終わりに近付いた。キャラバンの隊長が浪漫国の国境に差し掛かった時大きく息をして肩を上げ下げした。

「やあ、今回も無事についた」

 隊長の言葉に、奴隷たちが騒めく。

「どこに売られるんだろう」「何をさせられるだろうか」「主人は厳しいだろうか」

 真黒な顔をした隊長は「よく頑張ったな」と仲間のように奴隷に声を掛ける。

「お前たちのような奴隷は並の者は買うことが出来ない。富豪や役人であるから給金もいいだろうよ」

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