華夏の煌き
 隊長の言葉は偽りがないことを知っているので奴隷たちは希望を持つ。

「明日は早速、奴隷市にいく。今夜は宿に泊まり、身体を洗い身綺麗にしておくのだ。より高く売れるようにな」

 浪漫国に入り、雑多な市を抜け大きな宿屋に隊商は落ち着いた。奴隷たちは隊長からコインを一枚もらう。

「これで風呂に入り何か買って食べると良い」
「言葉がわからないのだけど」

 晶鈴が尋ねると隊長は白い歯を見せる。

「大丈夫だ。新顔のお前たちが明日奴隷として売られることが風呂屋も屋台の者もすぐわかる。金を渡すだけで融通をきかせてくれるだろう」

 そういうものなのかと晶鈴は頷いて宿屋の外に出る。浪漫国も土耳古国も西国も、そして華夏国も国境に近い町は色々な民族が交じり合い、雑多で、喧騒で、色彩の渦だった。
 明日、奴隷になるというのに晶鈴は、新しい国に興奮していた。しばらくうろうろして屋台を眺め、一切れのチーズを買って食べる。

「華夏国の酥(そ)に似てるのねえ」

 白い肌に金色や茶色の髪の人が多いのだなと眺めていると、華夏国の国境の町で占いをしていたカード使いの女を思い出した。

「彼女はまだあの町にいるかしらね」

 華夏国を思い出すと、次々に娘の星羅や、京湖、慶明や隆明など様々な人の顔が浮かぶ。

「元気でいてくれてるといいわね」

 二度と会えないかもしれないが、辛い気持ちにはならなかった。ふっとため息をついて見上げると、赤ら顔で着衣を乱している人たちが大きな建物から出てくるのが見えた。

「ああ、ここが風呂かしら」

 大きな建造物に圧倒されながらも、晶鈴は好奇心に満ちローマ風呂へと入っていった。

107 伯爵
 裕福な商家に買われた晶鈴は、奴隷というには破格の待遇を受けている。というのも、シルクロードを越えてきただけでなく、彼女の占術の腕前だった。華夏国民である胡晶鈴は、浪漫国の貴族や裕福層には外見的にウケが悪かった。あっさりした顔立ちは、何を考えているのわかりづらく、異質に感じるようだ。また他の奴隷たちは、奴隷らしくこそこそと下の者であるという卑屈そうな態度をとるが、晶鈴は飄々として買いに来るものを観察している。奴隷を買いに来た者が、まるで自分が買われるような気持になっていた。
 晶鈴を買った商人は新しもの好きで、西国の隊商長に彼女のことを尋ねた。

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