華夏の煌き
「弱そうに見えて案外強いし、占いができますよ」
「ほう。占いか。ちょっと試してみるか。言葉はどうなのかね?」
「今は西国と土耳古国の言葉だけですが、すぐに覚えるでしょう」
「じゃあ、ちょっと聞いてみてくれ。今、南の国と北の国と取引しているんだが、どちらが利益が大きいか」

 隊商長は頷いて晶鈴に今の内容を伝える。いきなり占えと言われても晶鈴は「いいわ」と動揺することなく胸元から流雲石をとりだし占い始める。

「南は水の害があるから今回は期待できないわ。でも北から珍しい毛皮が届くようよ」

 結果を隊商長から聞いた商人は、目を見開き「なんと! 南の国には今回、船で海路を使ったのだ!」と大声を出す。髭を撫で、腹をさする。大柄で白い肌を持つ中年の商人は顔を紅潮させその場を行ったり来たりする。

「この娘を買おう」
「いいんですか? あたりかハズレかまだ分からないでしょう」
「確かにそうだが。わしの直感がこの娘を買ったほうがいいと言っておる」
「そうですか。ではあなたに売りましょう。晶鈴、この方が主人になる」

 形ばかりの檻から晶鈴は出され商人の目の前に立つ。

「姓はフー。名はジンリンです」
「ふむ。わしはジェイコブ・フガーだ。ここよりも西に屋敷がある」

 ゆったりとした駱駝色のチュニックをかぶった商人はそばで控えていた使用人に馬車を用意させた。話しぶりや態度は気さくで物腰も柔らかい。裕福商人らしく、余裕があるようで人使いは荒くないだろう。

 晶鈴は主に商売の利益などについて占った。よく当たるのでジェイコブは晶鈴を重宝し、多くの給金を与える。数年で彼女は自分を買い戻すことが出来る金を貯めた。ジェイコブに自分の代金を払い、解放奴隷となり市民権を得る。もう縛られることなく自由の身になった晶鈴は、華夏国へ戻ろうと考えたが、シルクロードを一人で旅するには過酷すぎた。東に向かうキャラバンに混ぜてもらうか、人を雇って旅に出るしかない。どちらにしろまた膨大な金が必要だ。
 解放奴隷となり、市民権を得たがそのまま屋敷で金が貯まるまで働くことにした。ジェイコブはお抱え占い師である晶鈴にいつまでもいてほしいと願うが、賢明な商人なので無理強いはしない。華夏国に帰るまで気兼ねなく働いてほしいと気前の良さを発揮する。
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