華夏の煌き
 フガー家は晶鈴を雇ってからさらに発展を遂げ、豪商として名を馳せている。商人のみならず、貴族たちも恩恵にあずかろうと身分としては格下のフガー家を訪れることがしばしばあった。

 ある時、晶鈴は客が来ているときに、ジェイコブに客間に来てほしいと言われた。今までなかったことなので何かと思いながら晶鈴は客間に出向く。広々としたサロンは美しい大理石の柱が何本も建っていて、チェンバロの響きを共鳴している。

「お客様が弾いているのかしら?」

 当代随一の職人に作らせたチェンバロは美しい彫刻と絵画が施され、楽器というよりも調度品だった。フガー家では弾ける者もおらず、また客も美しすぎるチェンバロに手を出すものはいなかった。

 軽やかで優しくかわいらしく、そして温かさを感じさせる音色に晶鈴はしばし耳を傾ける。音がやんだのでそっとサロンに入る。頭を下げて顔を上げると、チェンバロの隣に中年の身なりの良い男が立っている。プラチナブロンドの長く艶やかな髪は漆黒のビロードのリボンで結ばれている。端正な顔立ちは美しいが中性的で、広い浪漫国の中のどの地方の出身なのかわかりにくい。貴族のようで深緑色のビロードのショート丈のジャケットに、膝下丈のほっそりしたズボンをはいている。ショートブーツも艶やかで上等な革を使っているのだろう。
 晶鈴は浪漫国の庶民らしく、生成りの羊毛のワンピースを被るように着ている。

「ジェイコブ様、失礼いたします」

 腰を落とし、晶鈴はあいさつし、客の前でも同じく腰を落とした。

「うんうん。伯爵、この者が占い師のジンリンです。ジンリン、こちらはジャーマン伯爵だ」

 晶鈴がもう一度腰を落とすとジャーマンは「お近づきのしるしに」と指にはめていた紅玉と金でできた豪華な指輪をはずし、晶鈴に与えようとした。掌にのせられた指輪を晶鈴はじっと眺める。

「お気に召さないですか?」
「え、ああ、あの価値はあるようですが身につけるには重たいですね」
「ふふふっ。ジェイコブ殿、面白い人を雇っていますね」
「まあ、ジンリンはそこら辺の者とはやはり違うのですよ。もらっておきなさい」
「資金にはなりますよ」

 晶鈴は、二人の男のやり取りを聞きながらなぜ自分がこのサロンに呼ばれたかまだ分からなかった。

「あの、御用は?」
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