華夏の煌き
「やっと奴隷制度がなくなったのね」
「形としてはね。奴隷だった者たちにとっては喜ばしいことだが、元王侯貴族たちの中にはそういうみな平等のような意識になれぬものが多いだろう」
「あなたは伯爵というご身分でしたね」
「ええ、革命までは。今は一市民ですよ」

 浪漫国が解体され、民主制になり、身分が変化してもジャーマンにとっては些細なことだった。

「世界が変わってもあなたは変わらないのね」
「君も変わらない。ああ、少し若返ったようだ。そのころの君がきっと充実してた頃なんだろうね」

 ジャーマンと一緒に過ごす晶鈴は歳を取るどころか確実に若くなった。華夏国を出る前くらいの娘時分の年頃だ。諸外国の人たちに比べ、元々若々しく見える晶鈴はまるで少女に見える。

「あなたはもっと若くならないのですか?」
「実年齢に比べ、はるかに若いよ。ちょうどこの年頃に精神と肉体の均衡がとれたのでね」

 深く細かく追求したことはないが、ジャーマンは華夏国の千年生きていると言われる伝説の道士のようだった。晶鈴が生まれる前のずっとずっと古い時代のことも話してくれた。
 残念なのは彼は華夏国には来たことがないことだ。一瞬で場所を移動することが出来るのは、行ったことのある場所に限っていた。ジャーマンのもとで、修行をし教えを乞うたおかげで、晶鈴はシルクロードを旅することなく、一瞬で華夏国に帰ることが出来るのだ。

「さあ、今度は私を連れて行ってくれたまえ」
「ええ、華夏国にお連れしましょう。でも、寄り道もさせてください」
「西国の友人だね」

 晶鈴は、占術と透視を組み合わせることが出来、今、朱京湖が西国に戻ったことを知っている。彼女に会ってから、華夏国へ戻ることにした。
 2人は西国の衣装を用意する。

「よくお似合いで」
「まあ、これはこれでアリかな」

 薄手の透ける衣を身にまとい、2人は手をとりあって西国へと向かった。

109 旅立ち
 長い晶鈴の物語を聞き終えて、星羅は一口酒を飲み尋ねた。

「これからどうなさるのですか?」
「北の国に行くの」
「北に? なぜ?」
「新しい国がおきるのを見に行くのよ」
「そのあとは?」
「また新しいことが起きそうなら見に行くの」
「華夏国には留まらないのですか?」
「ええ、ここはもう少し後で変化があるでしょう」

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