華夏の煌き
言われるまま、目を閉じ屋敷を思う。目を開くと、目の前に小さな屋敷にたどり着いた。今まで晶鈴の話を聞いていたが、実際信じろというのは難しいと感じていた。しかし、今、一瞬で自分の屋敷に戻ったのだ。
「明々のとこへ案内して」
厩舎にいくとロバの明々がぼんやりと虚ろな様子で横たわっている。晶鈴が「明々」と声を掛けると「ひん?」と弱々しく啼いてきょろきょろする。
明々のそばに行き、晶鈴は長い鼻面を優しく撫でる。明々はその晶鈴の手をなめようと長い舌を出してあちこち舐めまわそうとしている。
「ただいま」
「ひ、んっ」
「長い間、星羅の面倒を見てくれてありがとう」
「ひひっ」
「ほら、これはあなたに」
懐から桃色の岩塩をとりだし明々に見せる。明々は2、3度ぺろぺろ舐めて満足したような表情を見せた。そしてうとうとと眠りについた。
晶鈴は立ち上がり「会えてよかったわ」ともう一度明々に目をやる。
「とても嬉しそうです」
「さて、ではわたしはもう往くわ」
「もう?」
「うん」
少女のような晶鈴はいたずらっぽい目を見せる。
「また、会えますか?」
「会いたいときにきっと会えるわ」
「ほんとうに?」
「姿かたちが見えなくても、いつもあなたのそばにいます」
「母上……」
「そんな顔しないの。あなたが一緒に行かないって言ったんじゃない」
晶鈴は笑いながら、涙を流す星羅の頬を撫でた。
「母上」
「ごめんね」
ぎゅっと星羅を抱きしめ、晶鈴は彼女の美しい髪をなでる。
「私の最後の執着はこの髪の手ざわりだった。あなたのこの髪に私が生きて残した証があるわ」
星羅はなぞかけのような晶鈴の言葉を聞きながら、それでも京湖とはまた違う母のぬくもりを感じる。そっと身体を離し晶鈴は星羅の腕をもって目を覗き込む。
「星羅。次にまた求婚されたらお受けなさい」
「え? 求婚?」
ゆっくり晶鈴は頷く。
「きっとあなたが知らないことを経験できると思うから」
「そんな、夫のことがありますし……」
「いいえ。生きているものが大事なのよ。あなたは夫をそれほど深く愛していたの?」
「それは、もちろん」
「きっと今あなたがそう思っているほど、実際はそうではないと思うわ」
「そんな!」
「ごめんね。言い争うつもりはないの。でもね。あなたはもっと、私以上に深く知れることがあると思うのよ」
「明々のとこへ案内して」
厩舎にいくとロバの明々がぼんやりと虚ろな様子で横たわっている。晶鈴が「明々」と声を掛けると「ひん?」と弱々しく啼いてきょろきょろする。
明々のそばに行き、晶鈴は長い鼻面を優しく撫でる。明々はその晶鈴の手をなめようと長い舌を出してあちこち舐めまわそうとしている。
「ただいま」
「ひ、んっ」
「長い間、星羅の面倒を見てくれてありがとう」
「ひひっ」
「ほら、これはあなたに」
懐から桃色の岩塩をとりだし明々に見せる。明々は2、3度ぺろぺろ舐めて満足したような表情を見せた。そしてうとうとと眠りについた。
晶鈴は立ち上がり「会えてよかったわ」ともう一度明々に目をやる。
「とても嬉しそうです」
「さて、ではわたしはもう往くわ」
「もう?」
「うん」
少女のような晶鈴はいたずらっぽい目を見せる。
「また、会えますか?」
「会いたいときにきっと会えるわ」
「ほんとうに?」
「姿かたちが見えなくても、いつもあなたのそばにいます」
「母上……」
「そんな顔しないの。あなたが一緒に行かないって言ったんじゃない」
晶鈴は笑いながら、涙を流す星羅の頬を撫でた。
「母上」
「ごめんね」
ぎゅっと星羅を抱きしめ、晶鈴は彼女の美しい髪をなでる。
「私の最後の執着はこの髪の手ざわりだった。あなたのこの髪に私が生きて残した証があるわ」
星羅はなぞかけのような晶鈴の言葉を聞きながら、それでも京湖とはまた違う母のぬくもりを感じる。そっと身体を離し晶鈴は星羅の腕をもって目を覗き込む。
「星羅。次にまた求婚されたらお受けなさい」
「え? 求婚?」
ゆっくり晶鈴は頷く。
「きっとあなたが知らないことを経験できると思うから」
「そんな、夫のことがありますし……」
「いいえ。生きているものが大事なのよ。あなたは夫をそれほど深く愛していたの?」
「それは、もちろん」
「きっと今あなたがそう思っているほど、実際はそうではないと思うわ」
「そんな!」
「ごめんね。言い争うつもりはないの。でもね。あなたはもっと、私以上に深く知れることがあると思うのよ」