華夏の煌き
 星羅は血まみれになった手と、青黒い蒼樹の残していった手を交互に見ながら意識を失っていた。
   
123 刺客
 目を覚ました星羅は極彩色の寝具から飛び起きた。

「ここは……? 蒼樹は……」

 そばについていた侍女が「軍師様。郭様は隣でお休みになっておられます」と頭を下げたまま告げる。

「ありがとう」

 急ぎ隣の部屋に向かった。扉もなくすぐに中の様子が見える。

「蒼樹っ」

 声を掛けると側に座っていた陸貴晶が人差し指を立て、「しぃー」と声を出したのち説明をする。

「義姉上。大丈夫ですよ。多少、出血が多かったのですが命に別状はありません。疲れたのでしょう。眠っておられます」
「そう、良かった……」
「では、失礼して血になるものを探してきます」
「ありがとう。貴晶さんがいてくれて良かったわ」

 利発そうな瞳をちらっと見せて貴晶は出ていった。実際に彼の外科の腕前は相当なものだったようで、覧山国では彼に医術を学びたいと申し出る薬師が多かった。
 竹で編んだ椅子に腰かけて星羅はじっと蒼樹の寝顔を見る。血の気が引いて青い顔をしている。

「あら」

 蒼樹の目じりに皴を見つける。そして自分の目じりも触ってみた。

「同じ年だものね」

 一緒に歳を取ってきているのだなと感慨深く思うと同時に、命があって本当に良かったと安堵すると今更、涙が出てきていた。
 視界が滲むと同時に、星羅の頬にそっと蒼樹の指先が触れた。

「どうした?」

 蒼樹の問いに星羅は思わず笑う。
「どうした?ってそんな。あなたのほうが危なかったのに」
「その衣装もよく似合う」
「え? あ、ほんとう」

 血まみれだった星羅の漢服は、覧山国の民族衣装に着替えさせれれていたようだ。慌てて起き上がって蒼樹のもとに来たので自分の服のことなど気にも留めていなかった。

「生きていてよかった。星羅の女装がまた見れたからな」
「もう! ふざけないで」
「そう怒るな。俺でよかった」
「蒼樹……」

 星羅は力を入れないように蒼樹の胸に顔を埋める。

「ほんとに、ほんとうに生きていてよかった」

 蒼樹は星羅の頭をそっと撫でる。ハタハタと歩いている音が聞こえたので星羅は顔をあげ、涙を拭き顔をパンパンと叩いた。入ってきたのはムアン王だ。

「蒼樹殿、星羅殿。この度は本当に申し訳なかった」

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