華夏の煌き
 一国の王であるムアンの謝罪に、蒼樹は恐縮して身体を起こす。

「あ、無理しないでほしい」

 お付きの者がそっと介助しまた蒼樹を横たわらせる。

「陛下に大事がなくてようございました。軍師という職に就くにあたりこのような出来事は覚悟の上ですから」

 心からそう思って言っているのが星羅にもわかるが、実際に命の危険にさらされるとやり切れない思いがする。

「毒から分かったのだが、刺客を放ったのは我の異母弟なのだ……」
「弟君……」
「左様、残念なことに王妃も関係しておる」

 蒼樹が受けた毒は、王家に代々伝わるもので元々狂った巨象に使うものだったらしい。即効性のある毒は受けた場所をすぐさま排除しないと確実に命を落とす。つまり手足以外に毒針が刺さっていたならば、切り落とすことはできず死に至っていたのだ。

 異母弟は本来は正室の息子であり、王位継承の資格が十分にある。ムアン王は側室の息子なのだ。覧山国ではそもそも女人の地位が低いせいで、正室の息子であろうが、年齢が優先される。
 異母弟カムデはその事も気に入らないが、好戦的な性格なので華夏国と友好関係にあろうとすることにも大反対だった。悪いことに王妃のマハは元々カムデの恋人で、ムアンの妻に選ばれたときにますます恨みを募らせたのだ。

「身内のことに巻き込んでしまった」
「お二人の処遇はどうなさるのですか?」

 星羅の問いに、ムアンはまた複雑な表情を見せる。

「さすがに国家転覆罪にあたるので……」
「そうですか……」

 クーデターを起こして生き長らえることはやはり無理だ。

「マハがカムデの恋人であることを知っていれば妻に迎えなかったものを」

 マハは有力な大臣の娘で本人の意思なく王に嫁がされる。マハの父親の大臣も、まさか自分の娘とカムデが恋人関係であったことを知らなかった。権力を固めるためでもなく、単純に年頃の娘を輿入れさせた。
 ムカデはムアンを亡き者にして、マハを取り戻し王になるつもりだった。

「王妃は廃して、二人は一緒に弔ってやろうと思う……」

 悲しげでしかし慈愛に満ちた瞳を見せ、ムアンは立ち上がった。星羅をちらりと見て「まるで覧山国民のようだ」と笑んだ。星羅も微笑み返し部屋から出ていくムアンを見送った。

「覧山国と華夏国はきっとこれからうまく付き合ってけるだろう」
「そうね」

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