華夏の煌き
 返事をしながら、星羅はそれでもすっきりした気分にはなれなかった。覧山国のいざこざで蒼樹は腕を失くしたのだ。暗い表情をしている星羅の考えていることは蒼樹にもよくわかっている。

「少し不自由するだけだ。俺にはまだ頭もあるし舌もある」
「ん……」
「この腕を落としてしまったために、首謀者は命を落とすのだ。割に合わないものだな」

 異母弟のカムデと王妃マハへの同情のような言葉を吐く蒼樹に、センチメンタルになっている星羅はまた涙がこぼれてきてしまった。

「あなたって優しいのか何も感じてないのかわからないわ」
「フフッ。俺はお前さえ失わなければそれで良いのだ」

 蒼樹は片腕で力強く星羅を抱きしめた。

124 大軍師
 諸外国との国交も順調で、華夏国も持ち直し安定している。国が安定していると学問に精が出るのか、軍師省では過去最高の人数が所属することとなった。それでも教官の孫公弘は「みなどうも小粒でなあ」と不満を口に出している。
 そこへ片腕を亡くし体力的な衰えを感じている郭蒼樹が教官になりたいと申し出る。孫公弘は大歓迎だ。

「まさか郭家の者が教官職につくとはなあ!」
「よくよく考えてみれば、自分が軍師になるよりも、軍師を多く育て上げることのほうが重要かと思いましてね」
「そうだ! そうだ! さすがよくわかっているじゃないか」
「軍師には星羅がいるし十分でしょう」
「うむ。次期大軍師は星羅だろう」

 誰もの予想通り、大軍師、郭嘉益が引退し、次期大軍師に星羅を指名する。当然の結果とは言え、まだまだ現役だろうと思っていた郭嘉益の引退に星羅は物申す。

「星羅、馬に乗れ。少し遠乗りしようぞ」
「え? 遠乗りですか? わかりました」

 都を離れ星羅は、郭家の汗血馬に乗り郭嘉益の後を追う。馬の優々はもういない。今はロバの明々の隣で安らかに眠っている。汗血馬は頑丈で駆ける速度が速い。ぼんやりしていると、試すかのように乗っているものを振り落そうとするので星羅は気が抜けない。前を走る郭嘉益は余裕で馬を走らせている。その雄々しく若々しい姿を見るだけで、まだまだ引退には時期尚早にみえる。

 乾いた土地を超え、まばらに樹木が生えている手つかずのような丘で郭嘉益はとまる。馬を降り、適当な木の枝に馬を繋いだので星羅もまねた。

「ここはどこですか?」

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