華夏の煌き
 気持ちの良い木陰がある場所だが何の変哲もない丘に見える。

「その茂みを超えてみるといい」
「はあ」

 ガザガザと身長くらいの草木を超えると都が一望できた。

「へえ。ここはいい見晴らしの場所ですね」
「うむ。銅雀台がよく見えるであろう」

 天高くそびえるような銅雀台を正面から見ることが出来る景観に星羅は感心する。

「では、こっちだ」

 また茂みに入りしばらく行くと草が刈られ土が大きく盛り上がった場所に出る。星羅があたりを見渡していると郭嘉益は地面に座りその盛り上がった部分に向かってひれ伏し、三回額づいた。

「こ、ここは!?」

 立ち上がった郭嘉益は「ここが高祖の墓なのだ」と静かに敬意をこめて発言した。

「こ、高祖のっ」

 星羅も慌てて額づき拝礼した。その姿に郭嘉益はうんうんと満足そうに頷いた。

「よい。立ちなさい」

 言われるまま立ち上がるが星羅はここに高祖が眠っているのだと思うと、高揚感と畏怖感が沸き上がる。

「高祖の墓は一般には幻の墓と言われておる。高祖は死後、自分の墓を暴かれぬように72基用意したからな」

 目を輝かせて星羅は話の続きを待つ。

「大軍師に就いたものだけが高祖の墓を知ることになる」
「大軍師だけ」
「そうだ。まさか息子ではなく、息子の嫁に教えることになるとは思わなかったがな。わはははっ」

 愉快そうに笑う郭嘉益に「やはり蒼樹には知らせてはいけないのですか」と問う。

「うむ。たとえ肉親でもだめじゃ。まあ、あやつは高祖の墓になど興味ないだろな」
「そうかも……」
「なるべくしてそなたが大軍師となったのだろう」
「義父上。お早くないですか? まだまだ現役でいられるでしょうに」
「いや、引き際が肝心だ。そなたは十分に資格がある。才は早く使わねばな。馬秀永大軍師には悪いことをした。わしが不甲斐ないばかりに長く就任させてしまったことよ」
「そんな……」
「矯めるなら若木のうちに。好機を逃してはならん」
「わかりました。精一杯務めさせていただきます」
「うんうん。しかし運命というのは不思議なものだ。高祖の血がそうさせたのだろうか」
「えっ」

 驚く星羅に、郭嘉益は優しい目を向ける。

「太極府と軍師省の上層部だけはそなたの出自を知っておる」
「そうなのですか!」

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