華夏の煌き
 太極府の陳賢路もなんとなく含みのある物言いをしていたが、星羅が王の曹隆明の娘だとやはり知っていたのだ。

「そなたの母は賢明であったな。もしも身籠った時に騒いでおれば……」

 星羅にも想像がつく。曹隆明の子を孕んだと、胡晶鈴が訴えればおそらく良くて冷宮送り、そして生かされていれば星羅も王の妃の誰かの公主として、後宮から出されず育ったことだろう。

「まさに運命的だと言わずにおれぬ。高祖の血を引くそなたが、王の娘が大軍師となり、そしてその息子が王になるのだからな」    

 郭嘉益はまた高祖の墓に額づき拝礼をした。星羅も隣に座り一緒になって心からの拝礼をささげる。高祖がいつまでも安らかな眠りについていられますようにと。
 

125 新時代
 王の曹隆明も王位を退き、成人した徳樹に譲位する。健康に問題がなく、存命中に譲位した王は曹王朝の中でも、隆明唯一人だった。惜しむ声が多かったが立派に成人した徳樹を見ると誰もが納得した。

 星羅は、曹隆明も、前大軍師、郭嘉益のように育った後進が速やかにより才を発揮できるように譲ったのだと分かった。王の住まいであった銅雀台を徳樹に明け渡し、曹隆明は都の奥に屋敷を構える。新居に星羅は向かい、隆明一家の生活に不自由がないか確認に行く。臣下として星羅は隆明に拝謁する。

「面を上げよ」
「ありがとうございます」
「殿下。改めまして大軍師となりました朱星雷です」
「うむ。その名を使っておるのか」
「はい」
「ふふっ。そのように堅苦しくしなくてよい」
「あ、あのしかし」
「もう私は王ではない。これからは夫人とのんびり花を育てて過ごそうと思っておる」
「そうですか」
「星羅は何が好きなのかな?」
「え? 花、ですか」

 好きな花など星羅にはなかった。返答に困っている星羅に隆明は優しく笑んだ。

「ではこれからいろいろ植えるから、好きな花を見つけるといい」
「殿下、ありがとうございます」
「次来るときは、大軍師ではなく娘としてくるといい」
「殿下……」
「父でよい」
「父、うえ……」

 公に出来ない親子関係だがここで隆明を父と呼べるようになった。隣ではふっくっらと血色よく柔らかい表情の桃華が温かいまなざしで二人を見ていた。
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