華夏の煌き
「その京樹とやらを連れてきてもらえぬかの。いや、わしが行こう。両親に話をせねば」
「え、今ですか?」
「ああ、これは国家の大事じゃからの」
「では、ご案内します」

 星羅も京樹もこの国にとって重要な人物であるようだ。納得をする反面、晶鈴の娘には平凡な幸せを得てほしいと願う慶明は複雑な思いを胸に抱いていた。

34 星羅と京樹

 双子同然に育ててきたので、彰浩と京湖は星羅の生い立ちについては何も触れずに来た。京樹が陳老師のもとに通うようになって突然「僕と晶鈴は顔が違うね」と言い始めた。

 京樹は太極府で占星術を陳老師について学んでいる。自然と観察力と洞察力が幼いながらに身についてきているようだ。
 星羅ももう陸慶明の妻、絹枝の学舎に通い勉学を始めているが、読み書きしている大勢の子弟の中のそばで落書きなどをしているだけだった。

 彼の言う通り、兄妹のはずなのに星羅と京樹は明らかに容姿が違う。
 朱京樹は両親の彰浩と京湖に良く似て、艶のある浅黒い肌と刻太い黒い髪、くっきりした彫の深い顔立ちをしている。鼻梁も高く唇も厚く大きい。
 星羅の肌は白く、髪は艶やかな漆黒だが繊細な絹糸のようだ。丸く黒めがちな瞳は愛らしいが、額は広くりりしい眉をしている。小さな唇はふっくらとして淡い桃色だった。
 都の気候は西国と違い、乾燥して寒い。京湖と彰浩も以前の衣装はすでにしまい込み、しっかりと織られた目の細かい漢服を着ている。随分とこの国になじんでいるが、やはり異国の民である。



 隠すつもりはないが、もうそろそろ星羅の身の上について話さねばならないかと、京湖は決心し家族4人で話し合うことにする。
 慎ましい夕食を終え、あたりを片付けたのち京湖は話があるとみんなに告げる。

「なあに? かあさま」

 興味を持つ愛らしい瞳の星羅の頭を優しく撫でると、話すことがためらわれた。複雑な話は難しいかもしれないが、ある程度の事情は理解するだろう。

「星羅。実はあなたのお母さまは別の方なの……」
「え?」

 唖然とする星羅と、なんとなくそんな気がしていたという表情をする京樹の顔を京湖は見比べ、真剣な表情の彰浩に視線を送った。

「とうさまは?」

 星羅は、彰浩のほうを向いて尋ねる。

「とうさんも、ほかにいる……」

 彰浩は残念そうに答えた。

「星羅のかあさまととうさま……」

< 72 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop