華夏の煌き
 ごくりと彰浩の喉が鳴る音が聞こえ、京湖はそのまま彼の胸の早まる鼓動を聞いた。

 夫婦となった二人はどんな生活になっても寄り添いあっていきたいと願う。京湖は最愛の夫を得て、無上の喜びを感じていた。たとえ国に帰ることができなくても、彼さえいればそこが京湖の生きる場所だった。

 
37 星
 星羅がロバの明々の綱を引き散歩させているところに京樹が帰ってきた。

「京にい、おかえり」
「ただいま」

 明々も「ホヒィ」と鳴く。

「今日ね。この王朝の高祖について学んだの。分裂したこの華夏を統一するためにね色々な戦略やら、工夫などがあってね――」

 学んだ内容が面白かったのか、いつも快活でよく話す星羅はさらにおしゃべりになっている。

「よほど高祖が気に入ったみたいだね」
「ええ、策略もすごくて本当に非凡な方だわ」

 どうやらとても尊敬に値する人物になっているようで、星羅は心酔している。何かにいつも夢中になる活力のある星羅を京樹はとても好ましく思っている。彫が深く表情もはっきりしている民族である京樹は、意外にも内向的で物静かだった。父の彰浩に似たのか物静かで、一つのことに集中して探求するタイプのようだ。行動的で明るい星羅と違って、長考してじっと動かない。その資質は、太極府の星読みとして大いに力を発揮するのだった。
 2人の性格の違いのおかげか、二卵性双生児のような育ち方をしているのに、兄妹げんかをすることはなかった。活動的な星羅に、静かな京樹が見守り役のようだった。

「さあ、帰ろう」
「そうね。今日は咖哩よ!」
「ん。さっきいい香りがしてた」
「かあさまの作る咖哩は最高ね」

 さっきまで熱心に勉強の話をしていたかと思うと、星羅はもう食事のことに目が向いている。恐らく入っているだろうスパイスの名前を羅列し始める。次から次へ好奇心を発揮するような彼女の姿は、京樹にはない感情なので見ていて楽しい。

「明々も帰りましょ」

 年老いて緩慢な動きをするロバの明々を小屋に入れると、空には一番星が輝いていた。

「今日も綺麗な星」
「ああ、そうだな」

 空を見ながら単純にきれいだと感想を言う星羅と違い、京樹は星の瞬きと色、見える位置を観察している。

「そろそろ僕は夜に太極府に行くようになるかもしれない」
「そうなの?」
「星は夜にみえるからね」
「そっかあ」

< 79 / 280 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop