カタストロフィ


ロンドンからマーカスが到着したその日の夕暮れ時に、スコットランドヤードから手紙が届いた。
ちょうど全員がサロンに集まったその時、狙い澄ましたかのようにメイドが運んできたのだ。

ペーパーナイフすら使わずにむしるように開封し、ジェイコブは素早く手紙に目を通した。
そしてある一点で息を呑むと、無言でその手紙をマーカスに押し付けた。

「しばらく一人になりたい」

そう言って足早に去っていくジェイコブのその姿を見て、ユーニスは二人が助からなかったことを察した。
ジェイコブの後を追ってジェーンがサロンを出て行く。
静まり返った空気は、ほどなくしてマーカスが打ち壊した。
震える手で手紙を開き素早く全体に目を通すと、苦渋に満ちた顔で呟く。


「近日中に二人の遺体が届く。ダニエルが帰って来次第、葬儀だ。メアリー、社交界デビューは来年に延期だ。ユーニスも、しばらくは喪に服さなければならないから結婚を先延ばしにして欲しい。それから、明日の朝ロンドンに戻る……いつ仕事を辞めるか、上司に相談しないといけないから」


マーカスはレイモンドと年が近いため、長年彼の仕事を手伝い、時には代理を務めてきた。
爵位を継承するのはレイモンドでもいざという時の為に、とジェイコブはマーカスをシェフィールド家の近くに置き続け、後継者に必要な教育を施していたのだ。

3年前にレイモンドが結婚したことで、マーカスは跡継ぎのスペアという立場から解放されて自由な人生を手に入れた。
だがその自由も、たった今失われた。

マーカスも出ていき、サロンにはユーニスとメアリーの二人だけが残った。


「……お義姉様、私、どうすればいいかわからないわ。泣きたいのに泣けないの」


ひたすらに呆然とした様子のメアリーは、涙こそ流していないものの瞳に力が無い。
たまらず抱きしめて、ユーニスは小さく呟いた。

「いずれ泣けるようになるわ。今泣けないのは、ショックが大きすぎるからよ。それに、まだレイモンド様とエレノア様とご遺体を見ていないから……」

実感がないうちは、喪失感と信じられない気持ちが勝つだろう。
そう締めくくり、ユーニスはメアリーの背中をさすり続けた。

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