カタストロフィ


5月のよく晴れたある日に、シェフィールド家の長子レイモンドとその妻エレノアの葬儀が行われた。
帰ってきた二人の遺体は一言で現すと〝凄惨〟としか言いようがないものだった。

一体どういう経緯で二人が亡くなったのか、ユーニスは葬儀に出席して初めて知った。
なんでも、シェフィールド家の事業として始めた紡績会社の式典に出席した帰りの道で土砂崩れに巻き込まれ、馬車が崩壊したらしい。
大規模な土砂災害であったこと、他にも巻き込まれた人が居たことからすぐに救急隊が現場に向かったが、助け出された時には二人とも虫の息であった。
自宅まで運びホームドクターを呼ぶよりも近くの病院に搬送した方が良いと救急隊の面々が判断し、二人は病院に運ばれたが、医師や看護師の力及ばず亡くなってしまった。

二人を助けようと必死で救助活動をした救急隊と昼夜を問わず治療を試みた病院に謝意を述べたジェイコブは、失意の底にありながらも貴族らしい気品と威厳に満ち溢れていた。



そして、ロンドンの法律事務所を辞めたマーカスが伯爵家の後継となるべくコッツウォルズに帰ってきた。
葬儀に出席した後慌ただしくイタリアに戻ったダニエルからは、連日のように手紙が届く。
いつまで喪に服すのか、挙式をいつにするのが良いか、両親やマーカスと話し合って欲しいと書かれていたが、屋敷内の空気は重く澱んでいてとてもそういった話題を出せる雰囲気ではない。

どうしようか、と思い悩んでいたのはユーニスだけではなかった。
社交界デビューが流れたメアリーも、いつまで喪に服せば良いのか、両親に聞くに聞けなかったのだ。


「聞き方とタイミングによっては良くない雰囲気になってしまうじゃない?家族の死を悲しんでいない薄情者みたいになるわ」

午前中、ユーニスを自室に招いたメアリーは人払いをし、手ずから紅茶を淹れて勧めた。

「でもこれからの事をきちんと考えないといけないし……私の社交界デビューよりも、お義姉様とダニエル兄様の結婚こそあまり先延ばしには出来ないわ」

「そうよね。ただでさえ花嫁は年増なんだから、30の大台に乗る前にどうにかしなければならないわ」

気まずそうに、あるいは申し訳なさそうに目をそらずメアリーに、ユーニスは苦笑した。

「来月、お義父様とマーカス様がロンドンの別宅にマクレガー子爵とご令嬢をお招きするのですって。そこでマーカス様とご令嬢の顔合わせをして、夏にはここで婚約発表をするそうよ。だから、メアリーの社交界デビューと私の結婚は来年の今頃かもしれないわ」

「マクレガー子爵って、我が家と共同で紡績会社を興したあの?」

「そうよ。へブリティーズ諸島の有力者と繋がりがあったマクレガー家が社交界で毛織物を流行らせようとして会社を立ち上げたけど上手くいかなくて、お義父様に助けを求めたのが始まりだったかしら?レイモンド様は亡くなったけれど会社の勢いは止まらないから、今ここで両家の結びつきを確かなものにしたいのかもしれないわ」

「マーカス兄様にはぴったりのお相手ね。どんな方なのかしら?って、私はお嫁に行くし、お義姉様もダニエル兄様と海外に行くから、多少性格に難があったとしても私たちには関係ないわね」


高位の貴族令嬢が必ずしも素晴らしい性格であるとは限らないことをよく知っていたユーニスは、メアリーを嗜めることも出来ず、本日2回目の苦笑いをするしかなかった。


< 101 / 106 >

この作品をシェア

pagetop