カタストロフィ
こうなった時のジェーンはもう誰にも止められない。
もはや提案ではなく決定事項になってしまったことに苦笑するも、ユーニスは内心ホッとしていた。
いつになれば結婚出来るのか、とやきもきしていたダニエルに、ようやく答えることが出来る。
子どもを望むユーニスとしても、先の見通しが立つのはありがたい。
「7月でしたら、どこの国の劇場も閑散期です。ダニエルがまとまった休みを取りやすい季節ですわ」
「なら、挙式後にそのまま新婚旅行にも行けるわね。ゆっくりあちこちを回ってからミラノに行くと良いわ。ところでユーニス、準備はどのくらい進んでいるの?」
「ドレス、ヴェール、靴はすでに用意出来ております。サムシングフォーのうち、青いものだけまだ用意出来ていなくて……」
「私のサファイアのイヤリングを貸してあげるわ。サムシングブルーはそれになさい」
「そんな!もったいのうございます!お義母様の物を、ましてや宝石など貴重なものをお借りするなんて!」
「良いからお使いなさい。去年のクリスマスにダニエルから贈られたダイヤモンドと真珠のイヤリングも素敵だけれど、あれじゃウェディングドレスには合わないわ。そしてあなた、宝飾品はあれだけしか持っていないじゃない」
「おっしゃる通りです。しかし、私よりも相応しい借り主がいます。私などより、この家の後継の花嫁たるキャロライン嬢にお貸しください」
きっぱりとそう言い切るユーニスに、ジェーンは穏やかに目を細めた。
「ふふふ、ダニエルはきっと、貴女のその慎み深いところに惹かれたのね。ねえユーニス、最初に貴女とダニエルが結ばれた話しを聞いた時、私卒倒しかけたわ。でも今は、あなた達が夫婦になる日が来るのが楽しみで仕方ないの。それもこれも、貴女がこれまでシェフィールド家に真摯に尽くしてきてくれたからよ」
「奥様……」
「お義母様とお呼びなさい。ユーニス、案じることはなくってよ。キャロライン嬢には、私から新しいものを贈ります。ベルギーから取り寄せた最高級のレースでヴェールを作っているところなの。真珠も縫いつけて、とびきり豪華にするつもりよ!これだけ時間とお金をかけるのだもの、あなたにイヤリングを貸すくらいたいしたことじゃないわ。だから遠慮しないこと」
「お義母様……ありがとうございます。イヤリング、お借りいたします」
まさかジェーンの方から歩み寄る姿勢になってくれるとは思わなかったため、ユーニスは涙腺が緩みそうになるのを必死で堪えた。
日々更新される幸せに、ユーニスの心は満たされていた。