カタストロフィ

嫌な予感



「オム、今日の帽子なんだけど、どちらの方が似合うと思う?」


季節の花々をあしらった帽子が二つ、キャロラインの左右の手にそれぞれあった。
右手には、白いレースにラベンダーをあしらったもの。
左手には、淡いピンクのベルベット生地にマーガレットをあしらったもの。

今日のドレスはクリーム色、髪をまとめているリボンは若草色にした。
シェフィールド家からアフターヌーンティーの招待状が届いたのは昨夜のことであった。
口頭での誘いが1週間前にされていたため、準備する時間はじゅうぶんに確保出来ていた。

婚約者のマーカスだけではなく、今いるシェフィールド家の兄妹が全員出席することを知り、キャロラインは喜びに胸をときめかせた。

(ダニエル様もいらっしゃる!またあの麗しいお顔を見ることが叶うのだわ……!)

婚約者のマーカスの顔はよく覚えていない。
だが、ダニエルの顔ならばはっきりと覚えている。

彫刻に命が吹き込まれたかのような、完璧な造りの顔立ち。
黄金の糸のような髪、夏の空を思わせる青い瞳。

昔から、キャロラインは自分の平凡な容姿が嫌いだった。
人よりも美しいと誇れるものは、ストロベリーブロンドという珍しい色合いの髪だけであった。

自分は地味な顔立ちでも、美しい男性と結婚すれば、同じように美しい顔立ちの子どもに恵まれるに違いない。
そう思ったのは一体何歳の頃だったのか、もはや覚えていない。
気がついた時には、キャロラインは己の容姿の不出来さを打ち消すほどの美貌の男性を求めるようになっていた。

とはいえ、貴族の家に生まれた以上は結婚相手を選り好み出来ない。
ましてや、マクレガー家は新興貴族。
いくら財力があっても、貴族社会ではまだまだ下に近い存在であるため、相手を選ぶのは不可能に近い。


「ピンク色の方にしましょう。今日のドレスの色に合いますし、お顔の色もいつも以上に明るく見えます」

「わかったわ」


基本的に他人、特に使用人には興味がないキャロラインだが、オムは別である。
明確に、お気に入りに分類している。

なぜなら、彼の褒め言葉は具体的かつ説得力があるからだ。
そして、立場が下の者独特の媚び諂うような感じがしない。
いつも心からの賛辞を述べていると感じられるから、キャロラインはオムをお気に入りとして何年も側に置いているのである。


「ねえオム、今シェフィールド家には2人しか男子がいないじゃない?もしマーカス様に不幸があれば、ダニエル様が跡を継ぐわ。そうよね?」

「ええ、そうですが……」

「マーカス様も、レイモンド様のように不慮の事故に遭ってほしいものだわ」


< 109 / 110 >

この作品をシェア

pagetop