カタストロフィ
「そこまで不満に思っていないくせに。僕が気づいていないとでも思った?」
欲望に満ちた目をギラつかせ、それでいて優雅に微笑むダニエルにユーニスは見惚れるしかなかった。
「最初からそうだったよね。多少雑に扱った方が君は喜ぶ。だからそうしているんだよ。僕は君の性癖に合わせているだけだ」
その突き放したような声も、素っ気ない物言いも、すべてがユーニスの好みであった。
初めて身体を暴かれたあの夜、ユーニスの心を支配していたのは悦びと幸福だった。
淑女たるものベッドで必要なのは男性の昂りを鎮めることだけであり、そこに好みなどあってはならない。
ましてや、子作りを目的としていない性行為を受け入れるなど、あり得ないことである。
そう頭ではわかっていても、ユーニスはダニエルの支配者然とした態度に胸が高鳴るのを抑えられなかった。
「私をこんな身体にしたのは貴方よ。淑女らしくない扱いをされて喜ぶような女になったのだって、貴方のせいなんだから」
枕を手繰り寄せ、胸元から顔まですっぽりと隠し、ユーニスは呟いた。
固く目をつぶって拗ねたふりをすれば、ダニエルがクスクスと笑う声が聞こえる。
「そうだね、僕のせいだ。だから、きちんと責任を取らないと」
頭を撫でられ、触れるだけのキスが耳たぶに落とされた。
不意にベッドが軋み、体温が遠ざかる。
ダニエルが避妊の準備をしていることに気づき、ユーニスは大人しく待った。
「便利なものが開発されたわねぇ。こんなので避妊が出来て、病気の予防も出来るなんて」
「開発してくれた方々に感謝だよ。ただこれ、あまり流通していないからイタリアに行く前に大量に注文しておかないと」
「必要としている人はたくさんいるから、いずれ量産されるようになるはずよ」
最近、新しい避妊具が紳士達の間で流行り始めた。
30年ほど前からゴム製の避妊具はあったらしいが、使い心地はあまり良くなかったのだそうだ。
品質改良が急激に進み、ここ何年かで使い心地が改善された避妊具は、主に娼館が取り扱っている。
だが、使用層は卑しい身分の者だけではない。うっかり婚外子を作ってしまわぬよう、高貴な身分の者たちもよく使うらしい。
「今、何を考えているか当てようか?」
豊かな黒髪の毛先を弄びながら、ダニエルは低く囁く。
「僕が君の純潔を奪ったって両親に報告したことを気に病んでいる」