アンドロイド・ニューワールドⅡ
くじ引きの後は。

「さて、奏さん。次はどうしましょう?」

「そうだな…。そろそろ、何か食べ物、」

「奏さん、あれを見てください。非常に興味深いです」

「…うん。何?」

「あれです」

と、私は言いながら指差しました。

人々が水槽の前にしゃがんで、お椀のようなものを片手に、網で何かを掬っています。

あれは一体何でしょう。

もし、私の予測が正しいのであれば…。

「あぁ、あれは金魚すくいだよ」

と、奏さんは私の予想通りの返事をしました。

成程、あれが金魚すくいですか。

「瑠璃華さん、金魚すくいやったことある?」

「ありませんね。噂には聞いたことがあります。水槽の中に押し込められた憐れな小魚達を、追い詰め、追い込み、捕獲する遊びなんでしょう?」

「…そうだけど。そうだけど…言い方…」

と、奏さんは呟きました。

言い方とは、何のことですか。

「非常に興味深いですね。やってみましょう」

「あ、うん。分かった」

と、奏さんの了解を得て。

私と奏さんは、金魚すくいの屋台に行ってみました。

屋台のお兄さんに百円玉を渡すと、薄い紙を張った網を渡されました。

「貧弱な網ですね。これですくうのですか」

「ポイって言うんだよ、それ」

と、奏さんが教えてくれました。

ポイですか。何だか、投げやりな名前ですね。

「成程。ではやってみましょうか」

「うん」

と、奏さんは水槽の中に、ポイを潜らせました。

水槽の中には、うじゃうじゃと金魚がいるので、適当にすくっただけでも、何匹か捕まえられそうに見えましたが。

「うっ…全然捕まらない」

と、奏さんは顔をしかめました。

この金魚達、意外に俊敏に逃げます。

更に、このポイという網も。

奏さんが一度、水槽に浸けただけで、既に真ん中の方が破れています。

成程。見た目より、案外シビアなんですね。

「うーん。…難しい…。それっ。お、やった」

と、奏さんは一匹、黒い金魚を捕まえました。

「奏さん、黒い金魚が欲しかったんですか?」

「え?あぁ…うん、何となく…。その、久露花さんの、『くろ』をもじって…。あっ、いや何でもな、」

「奏さんのプレイを見て、学習しました。黒い金魚ですね、任せてください」

「…全ッ然聞いてないよ、この子…」

と、奏さんは呟いていましたが。

既に、私の耳には入っていませんでした。

私は今、非常に集中しています。

「ポイの強度を察するに…それから、水槽の水圧を考慮して、水面と出来るだけ平行に、かつ、水面に浮いてきた金魚を、素早く狙います」

と、私は分析しながら、ポイを水槽の中に投入しました。

「ポイが水に触れている時間は、出来るだけ短く。素早く手を動かすことが求められます。かつ、ポイの耐久性を考慮しながら…」

「お、おぉぉ…!?」

と、奏さんは目を見開いて、私の動きを凝視していました。

何なら、私の隣で金魚をすくっていた小学生らしき子供も、びっくりして固まっています。

ついでに、金魚すくいの屋台のお兄さんも、目を見開いています。

またしても、皆さんから注目を集めています。

今日は私、とても目立っていますね。

そんなことを頭の隅っこで考えながら、次々と金魚をすくいます。

狙っているのは、奏さんが希望した黒い金魚のみです。

数は少ないですが、それだけに狙いは定めやすいです。

結果。

「…ざっとこんなものです」

「す、凄い…!」

と、奏さんは感嘆していました。

私は一枚のポイが破れるまでに、およそ12匹もの黒い金魚を、すくい上げていました。

奏さんのものと合わせると、13匹ですね。
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