アンドロイド・ニューワールドⅡ
納得行かなそうな、むしろ悔しそうな顔をしたお兄さんに、金魚を袋に詰めてもらいました。

さて。

「では奏さん、この金魚は奏さんにあげますね」

「え、何で?」

「?奏さん、黒い金魚が欲しかったのではなかったのですか?」

と、私は聞きました。

「それは…うん、欲しかったけど…。でも、それは瑠璃華さんが取ったものでしょ」

「そうですね。ですが、欲しがっていたのは奏さんでしょう?私は大丈夫です、『新世界アンドロイド』は、食事の必要はありませんから」

「…ん?」

と、奏さんは真顔で首を傾げました。

面白い顔をしていますね。

大丈夫でしょうか。

「わざわざ黒い金魚だけを集めていたということは、この金魚は、さぞや美味しいのでしょう?折角ですから、奏さんが食べ、」

「食べないよ!」

と、奏さんは本日一番の大声で言いました。

今度は、私がびっくりしました。

「え?食べないんですか?魚なのに?」

「全ての魚を食べる訳じゃないからね!?あと、これ、金魚って観賞魚だから。食べても美味しくないよ。小さいし」

と、奏さんは説明してくれました。

成程、そうだったんですね。

確かに、一匹ずつ捌いて調理するには、サイズが小さいですね。

「観賞魚だったんですね、金魚というのは。赤魚の色違いかと思いました」

「あ、あっぶな…!食べられるところだったよ、君達…」

と、奏さんは、袋の中の金魚に話しかけていました。

「俺のいる施設じゃ、金魚は飼えないから…。瑠璃華さん、もし金魚を飼えるなら、飼ってあげたらどうかな。瑠璃華さんの好きな深海魚ではないけど…」

「そうですね…。分かりました。これも何かの縁です。飼ってみることにします」

と、私は答えました。

生き物を飼う。

とても人間的な行為ですね。

これも、『人間交流プログラム』の一環になるかもしれません。

「人間は、ペットに名前をつけると言います。では私も、この金魚達に名前をつけましょう」

と、私は提案しました。

生き物に名前をつける。初めての経験です。

「え、名前…。つけても良いけど、こんなに小さいのに、判別出来るの?」

「確かに体躯は小さいですが、個体差はあります。そうですね…。じゃあこの金魚の名前は…」

「何にするの?折角だから、可愛い名前を、」

「これはサーモン、こちらはマグロ、こちらはキンメダイ」

「…一応聞いておくけど、本当に飼うよね?食べないよね?」

と、奏さんは割と真剣な顔で聞いてきました。

大丈夫でしょうか。

「はい。『新世界アンドロイド』に、食事の必要はありませんから」

「…もし必要があったら、食べてそうな言い方だね…」

「小さいので、食べにくそうですけどね」

「やっぱり食べるんだ…」

と、奏さんは呟きました。

この金魚達は、奏さんと捕まえたものですし、それに奏さんが、妙に食べないよう念押ししてきますし。

食べずに、部屋の中で飼うことにしましょう。

興味深い体験ですね。
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