アンドロイド・ニューワールドⅡ
奏さんを抱いたまま、私は真っ直ぐに、海を目指しました。

最初は、ひたすら気が違ったような悲鳴ばかりあげていた奏さんでしたが。

「うわぁ…。綺麗…」

と、奏さんは海を見ながら言いました。

そろそろ、この空中散歩にも慣れたようですね。

景色を楽しむ余裕も出てきたようです。良かったですね。

現在は、既に日の入りの時刻。

水平線に沈む太陽を、私達は特等席で見ています。

夕陽が水面に反射して、きらきらと光っています。

「こんな眺め、見たことない…。物凄く綺麗だ」

と、奏さんは言いました。

それは良かったです。

恐らく、このような特別な景色を楽しむことが出来るのは、ほんの一握りの人間だけでしょう。

しかも無料で。

アンドロイドと友達になった、お得な特典のようなものです。

「楽しんで頂けたようで、何よりです」

「うん…凄い綺麗だよ。こんな景色を…瑠璃華さんと一緒に見られて、良かった」

と、奏さんは言いました。

満足して頂けたようで、何よりです。

ルール違反を犯してまで、バーチャルウイングを展開した甲斐がありますね。

しばしその場で、夕日が沈むのを眺めてから。

「そろそろ、完全に日が沈みますね。街に戻りましょう」

「うん」

「日が沈んでからも、それはそれで綺麗ですよ」

と、私は言いました。

夕日が沈む、その景色を見た後は。

今度は、色とりどりのライトが夜の街を照らす、美しい夜景を見に行くとしましょう。

素敵な景色、豪華フルコースです。

広い世界を見せると言ったのですから、思いっきり広い世界を見てもらわなくては。

私は奏さんを抱いて、街に戻りました。

「うぇっぷ…ちょっと酔ってきた…」

と、奏さんは呟きました。

人間は乗り物酔いするのでしたね。失念していました。

バーチャルウイングは、乗り物のうちに入るのでしょうか。

「あと少しですから、もう少々、辛抱してもらえますか」

「うん…頑張るよ」

と、奏さんは言いました。

ありがとうございます。

あとは夜景を見るだけですから、何とか堪えてください。

「ほら、見えてきました」

と、私は前方を指差して言いました。

すると、そこには。

「うわぁ…。めちゃくちゃ綺麗…」

と、奏さんは呆気に取られたように言いました。
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