アンドロイド・ニューワールドⅡ
…こうして、二人の空中散歩は終わりました。

私は再び、飛び立った自分のアパートの屋上に戻り。

抱きかかえていた奏さんを、車椅子に降ろしました。

「はぁ、はぁ…。地面だ。地面がある…」

と、奏さんは疲れたように言いました。

はい、地面はあります。

今更どうされたのですか。

「空を飛ぶのも良いけど…。やっぱり、人間は地に足を着けて生きる生き物なんだって、実感するよ」

「そうですか」

と、私は言いました。

「空中散歩は、お気に召しませんでしたか?」

「まさか、凄く楽しかったよ。怖かったけど」

と、奏さんは言いました。

奏さんは、高所恐怖症、という奴なのかもしれません。 

「ありがとう。本当に…ありがとうね、瑠璃華さん」

「いえ、お気になさらず」

と、私は言いました。

そして、バーチャルウイングを閉じ、通常モードに戻りました。

勝手に戦闘モードに移行し、人間にバーチャルウイングを見せてしまったこと。

後で、久露花局長に怒られてしまうかもしれませんね。

そのときは…。

…そのときは、しらばっくれましよう。

これは必要な犠牲です。親友と素敵な景色を楽しむ為に。

それから。

「奏さん。一応、先程のバーチャルウイングのことは、他言しないでもらえませんか。『Neo Sanctus Floralia』の重要機密の一つなのです」

「え?うん。勿論」

「隠し事をするのは、気が進まないかもしれませんが。ご理解お願いします」

「大丈夫、大丈夫。アンドロイドの女の子と一緒に空を飛んだなんて、話しても信じてくれる人はいないよ。俺以外はね」

と、奏さんは微笑んで言いました。

皆さん信じてくださらないのですか。世知辛いですね。

この場合は有り難いですが。

世界は広いのですから、アンドロイドを空を飛んだ経験のある人間だって、一人や二人、いるかもしれませんよ。

実際今ここに、奏さんという前例が生まれましたしね。

何でも、先入観で判断するのは良くないでしょう。

生きていれば、どのような経験をすることになるかは、分からないものです。

「…あ」

と、奏さんは言いました。

「どうしました?」

「やば…。もう、門限過ぎてる」

と、奏さんは腕時計を見ながら言いました。

なんと。

「それは申し訳ありません。そこまで気が回りませんでした」

と、私は謝罪しました。

空中散歩に夢中で、奏さんの暮らす施設に、門限があったことを失念していました。

「大丈夫、大丈夫。少々遅れたって、ちょっと怒られるだけで済むから」

と、奏さんは言いました。

ですが、怒られるのですよね。

「本当に大丈夫ですか?罰として奏さんが、ファラリスの雄牛の刑を受けるようなことがないか、私は心配です」

「ファラリ…何それ?」

と、奏さんは聞きました。

ファラリスの雄牛、ご存知ないのですか。

知らないということは、時に幸せなことです。

「私も一緒に謝罪させてください。奏さんを連れ回したのは私ですから」

「いや、平気平気。大丈夫」

「では、せめて施設までお贈りします。少しでも早く帰れるよう、私が奏さんをうんぱ、」

「あ、うん大丈夫。間に合ってる。さっき運搬されたようなものだし」

と、奏さんは急いで言いました。

私に運搬された方が、遥かに早く帰ることが出来るというのに。

何故頑なに、運搬だけは拒まれるのか。

不思議ですね。
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