アンドロイド・ニューワールドⅡ
奏さんでも食べられるように、洗って、皮を剥いてみました。

「どうぞ、奏さん」

「ありがとう」
 
「どうでしょう。美味しいですか?」

「もぐもぐ…。うん、美味しい」

と、奏さんは言いました。

それは良かったです。

この場に久露花局長がいたら、是非とも食べてもらいたかったですね。

きっと喜んでいたでしょうから。

「桃なんて、獲れたてを食べるのはいつぶりだろう。大抵食べるとしても、缶詰の桃缶だもんなぁ」

と、奏さんは桃をもぐもぐ食べながら言いました。

桃缶ですか。知ってますよ。

久露花局長が食べてたことがあります。

あのときは、桃は非常に危険な食べ物であるからして、わざわざ缶詰に加工しているのかと思っていたのですが。

そういう訳ではないのでしょうか。

「桃は足が早いから、季節じゃないとなかなか食べられないしね」

と、奏さんは言いました。

成程、そういうことでしたか。

それで、缶詰加工するのですね。

やはり私は、桃に対する知識が不足しています。

帰ったら、必ず先程奏さんか仰っていた本を読むとしましょう。

「…ところで、奏さん」

「うん?」

「奏さんは先程から、見ているだけで、ちっとも桃狩りしていませんが」

「あ、うん…」

「狩らないのですか?平和主義者ですね」

と、私は言いました。

ハンティングはお嫌いですか。

奏さんは優しいですからね。相手が植物とはいえ、狩りをするのは気が乗らないのでしょうか。

しかし。

そういう訳ではありませんでした。

「あ、いや…。俺、背が届かないから…」

「…」

「やろうと思っても出来ないんだよ。でも…さっきから瑠璃華さんが、楽しそうに桃狩りしてるから、それを見てるだけでも充分楽し、」

「分かりました。では、奏さんもやってみましょう」

と、私は言いました。

私や、他のクラスメイトの皆さんが、楽しく桃狩りを満喫しているのに。

同じクラスの仲間である奏さんが、ちっとも桃狩りを楽しめていないのは、それは不平等です。

よって。

「え、何を?」

と、奏さんが聞き返すと同時に。

「よいしょ」

と、私は奏さんを車椅子から抱き上げ、持ち上げました。

これで、奏さんも桃に手が届きますね。

「ふわぁぁぁぁ!?」

と、奏さんは何やら素っ頓狂な悲鳴をあげていましたが、きっと気のせいです。

桃に手が届いたのが、嬉しいのかもしれませんね。

嬉しい悲鳴、という奴です。

初めて聞きました。
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