望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
「安心しろ。お前を抱くつもりはない」
 安心しろとは、何について言っているのか。抱かれることに恐怖を持っていたわけでもない。むしろ、抱かれるとは思ってもいない。
 安心しろとは、カレンが口にしたい台詞だった。

「そうですか。ですが、それはそれで問題なのです、旦那様」
 初夜に何も無かったということが使用人の間に広まってしまえば、それは恐らく彼らの耳にも届く。そうなると、用済みであると判断されるのはどちらの人間か。

 カレンは横になったまま、枕の下に手を差し入れて、隠しておいたナイフを取り出した。護身用に肌身離さず身につけているナイフだ。
 それを手にするとやはり寝たまま、自分の腕を切り付けた。

「必要なのは、私の血です。これさえシーツについていればいいのですよ」
 笑みを浮かべ、血に染まった腕をレイモンドの目の前に差し出す。
 レイモンドは少し表情を崩した。まさか彼女がここまでやるとは思っていなかったのだろう。だが貴重な彼女の血だ。それらを拭い取るとシーツへとこすりつけた。

< 28 / 269 >

この作品をシェア

pagetop