望まれぬ花嫁は祖国に復讐を誓う
「では、僕は先に行っています」

「ええ。今すぐ行きます」
 そこで、カレンはドアを閉めた。ドアを背中にして大きく息を吐く。
「ごめんなさい。これから勉強の時間なの。一人で待っていられるかしら?」
 黒豹はまた、身体を丸めて、そこに顔を埋めた。
「お水は、ここに置いておくからね」

 パタパタとカレンは部屋を出て行った。その足音が遠ざかると、部屋には静寂が戻る。少し開けてある窓からは、やわらかい風が入り込んでカーテンを揺らしている。
 黒豹はまた顔をあげると、のそりのそりと歩き出した。怪我をしている後ろ脚はうまく動かすことができない。それを引きずる形になってしまう。彼女が読んでいた本が気になっていた。ゆっくりと鏡台に近づく。
 鏡台の上には一冊の本。鏡は閉じられており、本は開かれたまま。その本を、身体を伸ばして覗き込む。
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