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◇
「おかえり!思っていたより、早かったね?」
そう、一枝さんに満面の笑みで迎えられた。
思わず、ただいまと言ってしまいそう。
「一枝さん、酷いですよ!
こんな大きな会社の社長だなんて!」
社長じゃなく、会長だっけ?
「え?べつに、俺、紫織ちゃんの事騙してないよ」
そう言われ、そうか、と思う。
私が勝手に居酒屋経営者で、とか、思ってるよりも大きいのかな?とか、
全て勝手に思っていただけで。
一枝さんは、日本全国にある居酒屋チェーン店の【笑い鳥】を始め、沢山の飲食店を経営している、ブルークローバーグループ会長
兼、ブルークローバーグループ本社社長だった。
そして今、ブルークローバーグループ本社ビルの社長室で、この人と対面している。
「それにしても、紫織ちゃんなんで朱君の後を追って死ななかったの?
目の前で、大好きな彼が死んだのに。
なんで?」
そう一枝さんは相変わらず笑っているけど、
背筋がヒヤリと冷たくなった。
「…もし、死んだら。
蒼君の事を好きなこの気持ち迄が消えてしまうから、でしょうか?
よく、分からないです。
今もそうですけど、もう死んでもいいって気持ちだけど。
死にたい、とは思わない」
そして、今も私を生かしているのは、
蒼君との約束があるから。
私は、幸せにならないといけないのだと。
「そう。なるほどね」
そう言う一枝さんは、それに納得しているのか、いないのか分からないけど。
ただ、この人もその答えを探しているのだろう。
昔、好きな彼女が目の前で死んだけど、
何故、今も自分は生きているのかと。
私の答えは、この人が望んでいたものではなかったのだろう。