結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 自分は貧乏育ちで、少女時代の楽しい思い出なんてなにひとつないから、さっぱりわからない。

 母親はそう寂しそうにこぼしていたと、龍一が教えてくれた。

「お母さんがそんなことを……」

 自分には関心がないのだろう、そう思っていたのに。

「不器用な女性だったな。接し方を知らなかっただけで、凛音を疎んじていたわけではないと思う」

 龍一は凛音を見て、おどけたように肩をすくめてみせる。

「俺はたとえ自分の両親でも不倫をする人間は軽蔑するが……まぁ、それはそれとして。たまには墓参りに行こうか。孫が生まれることくらい報告してやらないとな」
「はい」

 凛音の目尻に光る涙を龍一が優しく拭った。

 軽井沢の街を散策して、湖でボートに乗り、夕方には別荘に戻ってきた。

 夕食はなんと龍一が作ってくれるのだそうだ。食材の入った袋をダイニングテー
ブルに置きながら、彼は言う。

「いつもは料理人を頼むんだが、今回は凛音とふたりきりがよかったんだ」

 後ろからぎゅっと抱き締められ、凛音はあわあわと視線をさまよわせてしまう。この恋人としての距離感にいまだ慣れない。
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