結ばれないはずが、冷徹御曹司の独占愛で赤ちゃんを授かりました
 終業時間を二時間ほど過ぎてから、龍一は帰宅しようと社長室を出て地下駐車場へ向かう。

 龍一には運転手がついているが、行き帰りは自分で運転することに決めていた。短時間のドライブは頭を整理するのに最適な時間だから。

 一般社員たちはみな電車通勤なので、この時間の駐車場は人気がない。役員用の黒塗りの高級車と営業用の白いセダンがいくつか停まっているだけだ。

(ん?)

 駐車場の片隅で、うずくまっている人影に龍一は気がつく。暗くて見えづらいが、体格から判断するに女性のようだ。

 龍一は慌てて彼女に駆け寄る。

「どうしましたか? どこか具合でも……」

 そう声をかけながら近づいたところで、自分の足元にうずくまる人物が誰かを悟った。

「凛音!」
「あ……りゅ、社長」

 弱々しくこちらを向いた凛音の顔色は真っ青だった。肩が小刻みに震え、額にはうっすらと汗がにじんでいる。

「どうした?」

 龍一はその場にかがみ込み、彼女の背にそっと手を当てる。

「撮影の立ち合いで、車で戻ってきたところだったんですが……ちょっと気持ちが悪くなって」
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