カモフラ婚～CEOは溺愛したくてたまらない～
傷心するわけでもなく、憤慨するわけでもなく、ましてや驚くわけでもなく。

理不尽な彼女の父親の言葉を真摯に受け止めていたのだ。

「由華ちゃんには全く関係のないことだったのに、由華ちゃんの優しさに漬け込むような真似をしてしまった。本当はフリだけお願いして、あとはチャンスをモノにできるように、自分自身精一杯頑張るつもりだったんだ」

私も最初はフリだけで終わると思っていた。

だから蒼空の背負っているものを傷付けたくなくて、私にできることならなんだってしてあげたいと思えた。

それが予想外の『結婚』だったとしても、私は普通ではありえないくらい、素直に協力できると思ったんだ。

しかしおばさんの登場で思わぬ方向に話が進み、本当に結婚することになってしまって。

でも不思議とそれをすんなり受け入れてしまっている自分が怖いくらいだ。

「なのに母さんの暴走で、由華ちゃんの人生を大きく変えてしまうことになってしまった。俺にとっては最高の結果になったけど、由華ちゃんにとって最悪な結果になってしまったら……」

その先を言えないのか言いたくないのか。

蒼空はそれきり押し黙ってしまった。

こういう時、なんと声をかけてあげればいいのだろう。

蒼空と同じ気持ちを返すことができない私が、どんな言葉をかければ蒼空は安心するのかわからない。

けれど全てを話してくれた蒼空には、今の私の気持ちをはっきりと伝えなくてはならない。

それが蒼空の求める言葉と少し違っていたとしても。
< 43 / 64 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop