孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「ああ。やるにしても、前頭部を冠状に二十センチは切開が必要になり、脳器質そのものにもリスクがある。君の言う通り、動脈瘤は経過観察を勧める方が現実的か」


一色先生は半分自分に言い聞かせるように、大きく何度も頷いた。


「俺が木山と同席して、患者と家族にリスクの説明しよう。俺たちが頭を悩ませるのは、納得してもらえなかった場合だな」


マウスを動かし患者の電子カルテを閉じると同時に、僕たちの背後からパタパタと足音が近付いてきた。


「一色先生。教授いらしたので、回診お願いします」


声をかけてきたのは、小柄な病棟看護師だ。


「ああ」


返事をして立ち上がる一色先生を横目に、彼女は僕に目を留めた。
「うわ、イケメン……」と呟いた後、慌てふためいて両手で口を押さえる。
そして、やけにキビキビと背筋を伸ばし――。


「はっ。初めまして! 7B病棟看護師の、橋詰(はしづめ)と申します」

「知ってます」

「へっ!?」


力いっぱい自己紹介をして、僕の即答に素っ頓狂な声をあげた。
途端に、一色先生が珍しくぶぶっと吹き出す。


「え? 知って? え?」


橋詰さんは困惑気味に、僕と、口に手を遣って顔を背ける彼に交互に目を遣った。
一色先生は、「失礼」と言いながら肩を震わせていたけれど。
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