孤高の脳外科医は初恋妻をこの手に堕とす~契約離婚するはずが、容赦なく愛されました~
「橋詰さん、それ、霧生先生だよ」


笑いをのみ込み、白衣のポケットに手を突っ込んだ。


「それ……」

「え? ……ええっ!?」


『それ』扱いにひくっと頬を引き攣らせた僕は、盛大な声に阻まれた。


「霧生先生って、あのもっさり君……」

「こらっ、真由(まゆ)!!」


橋詰さんが最後まで口走る前に、後ろから突進してきた別の看護師が、彼女を羽交い絞めにする。


「うぐっ」

「すみません、霧生先生、一色先生っ。ここはいいので、早く回診に……」

「しょ、祥子(しょうこ)、苦し……」

「俺は別に謝られるようなことはされてないが……。腕、緩めてやれば? 頸動脈入ってるし、そのままだと昇天するよ、橋詰さん」

「……はっ」


一色先生から涼しい顔で指摘され、橋詰さんを絞めていた看護師が、我に返ったようにパッと腕を離した。
解放された橋詰さんが、ゴホゴホと咳き込む。


「もっさり君……」


顎に手を遣り、彼女の言葉を反芻する僕の背を、一色先生が「行こうか」とトンと押す。


「あ、はい」


僕は、ペコペコ頭を下げる看護師二人に軽く会釈をして、彼と一緒にナースステーションから出た。
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